15
博斗はイライラと歩き回っていた。
「瀬谷君。落ち着くんだ。床がすり減ってしまうよ」
「落ち着いてられるかってんだ」
博斗は吐き捨てるように言うと、さらに早足になって床を往復した。
ひかりが憔悴した顔で戻ってきた。
「命には、別状ありません。半分ほど変身を遂げている状態だったためでしょう、奇跡的に打撲だけで済んでいます。骨折もありません。一日もあれば、体力的には回復できると思います。しかし回復したとしても…」
博斗は首を横に振って、ひかりの言葉を中断すると、テーブルの上に五人の腕章を並べた。
「ひかりさん。桜君のやっていたことを、あなたは出来るはずだ。ひかりさんがどんな考えで行動しているかはわからないけど、いま俺がひかりさんにやってほしいことは、大急ぎでスクールファイブをパワーアップさせることだ。出来るんだろう、あなたには?」
ひかりはうなずいた。
「ええ。博斗さんがそう言うのなら。桜さんが休んでいるいま、私がやるしかないのでしょう。しかし、強化したとしても、彼女たちの変身速度に変化はありません。なにか方策を考えなければ変身して戦うことは結局出来ずじまいです。そして戦えたとしても、いまの彼女たちには必殺技すらありません」
「それはそのとき考える。まず、やれることを一個ずつ試していくしかない。頼みます、ひかりさん」
ひかりは黙礼すると、険しい面持ちで司令室を出ていった。
博斗はため息をついた。
間違いなく、コア宝石による強化より前に、クロスムーは三つ目の十字架を埋めてしまうだろう。
四つ目の十字架にも間に合うのか?
「瀬谷君。私にも少々考えがある。背水の陣だ。三つ目の十字架は無視しよう」
「なんですって?」
「スクールファイブが赤子同然ではどうにもならんよ。力を蓄えじっと作戦を練るのだ。四つ目の十字架だけを全力で阻止し、怪人を倒す」
「大事の前の小事か」
博斗は苦い思いでモニターを見上げた。
コンピューターが、現在のクロスムーの移動速度と方向から、目標地点を算出した。
「今度は北だな」
理事長が言った。
「陽光学園から北へ…。中央病院か」
「中央病院だって!?」
「瀬谷君。耐えるんだ。行ったところで何も出来んよ」
「わかってます。わかってますよ」
博斗は鼻をほじりながらぶらぶらとドアに向かった。
「とりあえず、彼女たちの様子を見てきます」
そう言って博斗は司令室を出て、遥達の眠っている別室を覗いた。
彼女たちの寝息だけが聞こえる。
博斗はすぐに部屋を出た。
嘘はついていない。彼女たちの様子は見た。
博斗は、別室の裏手のドアからひそかに地上に出た。
たとえなんと言われようと、無駄とわかっていても、やるしかない。
中央病院には望がいる。
見殺しに出来るわけがない。
理事長は言った。俺の判断で行動しろ、と。
行くぞ、瀬谷博斗。
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