12
校舎を臨む道路脇で、異様な集団が一塊になっていた。
チョコムーは戦闘員に檄を飛ばした。
「他にも俺の毒チョコを食った男がいるはずだ! そいつらをどんどん目覚めさせて、街中を恐怖と混乱に陥れるのだ!」
「待ちなさい! それ以上の暴挙は許しません!」
ブラックの澄んだ声がその動きを止めた。
「なにいっ?」
チョコムーは振り向いた。
「おのれ! いくぞスクールファイブ!」
チョコムーが手足を大の字に広げて大きく構えると、辺りからどんよりとした気配が集まり、吸い込まれるようにチョコムーの体にまとわりついていった。
チョコムーが鎌をひと薙ぎすると、ごうっと風が巻き起こり、渦を巻いて五人を翻弄する。
「つっ!」
たまらず五人は校舎の壁に寄りかかり、風をしのいだ。
「どういうことっ? あいつのパワーが増えたみたいよ!」
「憎悪と怨念だ! あいつは、チョコレートをもらえない男達の恨みつらみを吸収してパワーに変えたに違いない!」
「なんですって!」
ブラックとブルーが並んでチョコムーに攻撃したが、チョコムーから放たれている瘴気に体が触れた途端、跳ね返された。
「お前らごときの軟弱な愛がこのシールドを破れるものか! 覚悟しろ、スクールファイブ! お前達では俺様には勝てん! 憎悪は愛に勝るのだ!」
「違うっ! それは違いますっ! わたし達の愛は軟弱なんかじゃない!」
ブラックが強く言った。
ごくりと唾を呑んで、ブラックは他の四人をかばうように一歩前に出た。
だがその瞬間、チョコムーの足元で白光が輝き、チョコムーは宙に放り出され地面に転がった。
「な、なんだ今のはっ?」
チョコムーは、すぐさま立ち上がると、爆発の起きた辺りに目を凝らした。
何かがいる。
爆煙が薄れ、何者かの正体が次第にはっきりと見えてきた。
白マントに全身を包み、ほんらい顔があるべきところには、代わりに白骨のドクロが乗っている。
ドクロの顎がカタカタと揺れ、聞くものをぞっとさせる笑い声が響き渡った。
「フフハハハハハハハハッ! 我が名は白百合仮面。故あってスクールファイブに味方する」
白百合仮面はチョコムーに躍りかかった。
白百合仮面の杖がはっしと振り降ろされ、チョコムーの胴体を強烈に打ち据えると、あれだけ頑丈だったはずのチョコムーを一撃で粉砕し、完全に破壊した。
白百合仮面はマントを顔の前にかざし、次の瞬間、そこからかき消すようにいなくなってしまった。
「なん、だったの…いまの?」
しばし五人は呆然とするばかりだったが、はっと我に返って制服姿に戻り遥が言った。
「そだ、博斗先生は?」
「行ってみましょう」
由布が先に立ち、校舎に戻る道を歩いた。
校舎に入ると、ひかりが彼女たちを保健室に案内した。
廊下を歩いて保健室の前まで来ると、ドアを開けてひょっこりと博斗が姿を現した。
博斗は五人の姿を認めると、一声吠えた。
「うがああぁああっ!」
両手を振り上げた博斗に、思わずびくっと身構える由布を、遥が後ろから抱きしめた。
「駄目? 戻ってないの?」
桜は疑問を口にした。
「…あああっ、よく寝た」
博斗はうんと背伸びをした。
「いやー、すげえ欠伸しちまったよ。…って、あ、あれ? お、おい、なんだ、なんでみんなそんな恐ろしい顔を…」
~しばらく都合により映像と音声を中断しています~
「…まったく、ひどいことをする」
博斗はぶつぶつ言いながら服をはたいた。
「自業自得です」
「ただ欠伸しただけなのに…」
こきこきと首を鳴らした博斗の前に、由布が立った。
「ごめんなさい…」
博斗は、由布の前に指を立てた。
「待った! そこで泣くなよ。いいか由布、チョコレートが変なんだったのは由布のせいじゃない。怪人が悪い。これはいいな?」
「はい…」
由布は悲しそうに博斗を見ている。
「いいんだよ。俺のことは気にしないで。べつに怪我したわけでもない。いいかい、スクールファイブとして戦うことにしたときから、俺達はみんな同志であり、家族なんだ。喜びも苦しみもみんなわかちあう、そういう仲間だ。…違うか?」
「…」
「すまなかったと思う。不可抗力とはいえ、みんなにひどい思いをさせてしまった。俺だって、やりきれないんだ」
「先生のせいじゃありません。誰のせいでもありません。とにかく、ご無事でなによりです」
「ああ。…それで、いいんだよ」
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