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「はあ。なぜわたくしこんなの見てるのかしら?」
翠はがっくりとうなだれた。
「ま、まあ、いいじゃないですか。楽しんでいる人がいるわけですし…」
由布がなだめる。
「この人達は特殊な人格をしているのだから仕方がありませんわ」
翠は再びため息をついた。
「みなさん揃いも揃って、童心というか、お子様というか…」
「翠さんは、嫌いなんですか? こういうのは?」
「嫌い…かどうかよくわかりませんわね。わたくし、こういうものを見たことってありませんから」
「わたしだって見たことはありませんよ。男の子向けヒーローは。でも、女の子向けの話でも雰囲気は似たようなものではないですか?」
「わたくし、子どもの頃は、テレビとかそういう物自体、ほとんど見たことがありませんでしたから。なにもわかりませんわね」
「そうですか…」
ステージの左右に取り付けられたスピーカーから、きれいな女声のナレーションが入った。
「たいへん! このままだと大切なマスターディスクがワルリアン一味に盗まれてしまうわ! こんなときはどうすればいいの?」
どの子ども達や親達よりも早く、待ってましたとばかりに燕が叫んだ。
「ゲンガマンをよぼうっ!」
ナレーターがその声に応えた。
「そのとおり! じゃあ、みんなでゲンガマンを呼ぶわよ! いっせーのー…」
「助けてーーーーっ、ゲンガマーーーーン!」
客席の子ども達(と燕)が一斉に声を上げた。
ちゃらっちゃらっちゃっ、と、音楽が切り替わり、テンポよく勇壮な、ゲンガマンのオープニングテーマが流れ始める。
「そのマスターディスク、ちょっと待ったぁ!」
スピーカーからではなく、肉声で、勇ましい声がした。
「な、なにものだぁ?」
怪物が動きを止め、わざとらしく左右を見回す。
ステージの袖から、ゲンガブルーが颯爽と現れた。
続いて三人が現れる。
ゲンガレッドがいないのはなぜだろう。
怪人が身振りで驚きを表現した。
「おおぉっ? お前達が噂の!?」
ゲンガマンが順番にポージングする。
スクールファイブよりかっこいいかも知れないと、博斗はちょっと思った。
ゲンガマンの四人が一列に並ぶと、その後ろで四色の火薬が爆発した。
「描け! 開発戦隊、ゲンガマン!」
「ええい、うるさい! かかれっ!」
怪人が指揮すると、ステージにワルリアン一味の戦闘員達がなだれ込んできて、ゲンガマンとの戦いが開始された。
…といっても、まあそこはお決まりという奴で、ゲンガマンがパンチを繰り出し、足を振り回し、ジャンプするたびに戦闘員が減っていき、やがて怪人とゲンガマンだけがステージに残った。
「おのれゲンガマン! これでもくらえ!」
怪人が手を振り上げると、ゲンガマンのすぐ目の前で火薬が爆発した。
ゲンガマンはその一発で倒れ、苦しそうにもがいている。
客席の子ども達からは、ああー、というため息が漏れてきた。
「ゲンガマン、とどめだ!」
そのとき、客席の後ろから高らかな声がした。
「待てぃ!」
「なに?」
と声を上げて、怪人は手を止めて待った。律義な奴。
客席の後ろには、いつの間にかゲンガレッドが立っていた。
陽光タワーをバックにして勇姿が映える。
「いくぞワルリアンモンスター!」
ゲンガレッドは客席の間の花道を抜けてステージまで一気に走ってきた。
子ども達は大喝采である。
「みんな、待たせたな!」
ステージに上がったゲンガレッドを、なぜかいきなり元気になって立ち上がった四人が囲んだ。
「よし、ゲンガブーメランだ!」
「おうっ!」
なんでレッドがどこに行ってたのか誰も聞かないんだろう、と博斗は思ったが、そういう無粋な考えは頭の隅っこのほうに蹴っ飛ばして片づけた。
五本のブーメランがが放り投げられ、バシバシッと怪人に当たった。
「うおおっ! ぐあぁぁぁぁ!」
怪人はひとしきり叫んで床に崩れた。
しかし、怪人はうめき声を上げて立ち上がった。
「ゲンガマン、最後の勝負だ!」
たったったったったったったったったったったったったったったったったらら~。
怪人巨大化のBGMがかかった。
ステージの怪人はちっとも大きくなっていないが、まあ、そういうことだというお約束だろう。
そのとき、博斗は、ぶるっと身を震わせた。
頭に鈍く痛みが走る。
この感じは、まさか…。
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