「ちがうんだな~。そこでななめを向いてるときは、右手はこしにあてたままなの」

と、玉次郎は男の子の手を腰につけさせた。


「よろしい。今度はオッケーだ。それでこそ君たちはほんもののゲンガマンだよ」

子どもたちは目を輝かせて玉次郎にうなずいた。

「はい、ちょうかん!」


「うひょひょ~」

玉次郎はテングになった。

「ちょ、長官! それこそ男があこがれる永遠の職業! 長官、長官、長官だってさ!」


玉次郎の頭をぽかりとあずさが殴った。

「用が済んだのなら、早く帰りますわよ」


「痛いな~。何もなぐらなくてもいいじゃないか」

玉次郎が頭を押さえると、二人の子どもがあずさの前に立ちはだかった。

「ちょうかんに悪さをするお前は、ワルリアン女王だな! ゲンガマンがやっつけてやる!」


二人は、手に持っていたおもちゃの剣を振り回してあずさを攻撃した。

「い、いたっ! ちょっと、玉次郎、なんとかしなさい!」

だが、玉次郎は笑って見ているだけだった。


あずさは逃げ出して、博斗達のところにやってきた。


「まてー!」

小さなヒーロー達もあずさを追ってやってくる。


あずさがやってきて通り過ぎると、博斗は、やってきたゲンガレッドとゲンガブルーを通せんぼした。

「まあ、そのへんにしとけ」

「うわわっ!」


玉次郎がぱたぱたとやってきた。

「あ、お…にーさん、こんにちは。…ねえ、おにーさん、ってなんか呼びにくいよ」


「おう、そうか。じゃあ博斗おにーさんと呼びなさい」

「はくとさんだね」

「博斗おにーさんだ」


「うん、それでさ、はくとさん、もしかしてゲンガマン知ってるの?」

「博斗おにーさんなんだけど。まあ、いいや」

ちょっとがっくりした博斗だったが、すぐに頭を切り替え、素早く計算した。

翠にプレッシャーをかけてみよう。少しずつ。


「知ってるもなにも。なんたって、この翠お姉さんが、今度の土曜日にゲンガマンショーをやってくれるんだぞ」

「ええっ、ほんと?」

玉次郎の目が輝いた。


翠は博斗に抗議した。

「ち、ちょっと、博斗先生。おかしなことを言いふらさないでいただけます?」

「なんで? なんにも変なことないじゃないか」


「ねえねえ、はくとさん。僕も連れてってよ」

「おう。いいぞ」


「先生、勝手に話を進めないでいただけます?」

「なんだ、誘っちゃいけないのか? せっかく楽しみにしてるのに? 翠君は子どもに冷たいのかな~?」

「そ、そんなことありませんですわ! わかりました! 一番前の席をキープしますわ。何人でもどんといらっしゃい!」


「よかったな、玉次郎」

「うんうん。戦隊は男のロマンだよね」

「おおーーーーっ! お前も男のロマンがわかるかーっ! よしよしっ、では俺の弟子にしてやろう!」

「おっす、師匠!」


意気投合する二人に、翠はあきれていた。ふと見れば、あずさが同じようにあきれている。


二人のお嬢様は並んでどっとため息をついた。


「あずさ様~」

玉次郎が駆け寄ってきた。

「あずさ様も行くよね?」


「はあ? わたくしがそんなくだらないものに行くわけないですわ」

「ええ~っ? でも面白いよ」

「イヤだったらイヤ」

あずさはそっけない。


気がつくと、博斗が翠の傍らに立っていた。

「なにか、あずさに言ってやりたいことがあるんじゃないのか?」


翠は、はっとして博斗を見た。

「…別に、ないですわ」

「そう、か」

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