8
一行を乗せたトラックは走り出し、はじめのうちは舗装された道を走っていたらしく、揺れもほとんどなく快適だった。
「ねえ、どのぐらいかかるの?」
燕が博斗に聞いた。
「うーん…空港から百キロぐらいって話だから、二時間ぐらいじゃないか?」
博斗は欠伸を噛み殺して答えた。
「二時間あれば、充分だ」
桜は言うと、荷物の中から何かを取り出した。
「そりゃあ、確か…」
博斗は声を潜めた。
「修理頼まれてたでしょ。どうしても構造が理解できなくて時間かかってたけど、やっとこ、出来たよ。完璧に直ってるし、以前より変換効率を高めてあるから、バッチリだと思う」
そして桜は、木の棒のようにも見える小さな武器を、博斗に手渡した。
「俺に、使えるのかい?」
「うん。使い方は、簡単。一回使ったことがあるんでしょ? だったら問題ないと思うよ。あとは、むしろ、博斗せんせ自身の剣の腕の問題だね」
博斗はたじろいだ。博斗は、うまれたこの方、剣術とか剣道なんてやってみたことがない。
この前だって、やけくそでただ思い切ってやってみただけだ。…う~ん、そのうち由布に剣道を教えてもらわなければ。
「ま、期待してるよ、せんせ。でも、無理しないでね。僕らみたいに、頑丈じゃないんだから」
「ああ」
博斗の心は躍っていた。
以前とは違う。
いまの博斗は、オシリスという、博斗のご先祖の夢をみているなかで、この剣を使っているオシリスと、感覚を共有したことがある。
自在に、この剣を使えそうな気がする。彼女たちに守られるのではなく、彼女たちを守るために、戦うことが出来るかもしれない。
宿敵シータと、自ら剣を交えることが出来るかもしれない。
「あ、そうだ」
桜が言った。
「名前、考えたんだけどね」
「名前って、この剣の?」
とても嫌な予感がする。
「言ってみ」
「レーザーブ…」
「却下」
「えーっ、なんでっ! これで決まりだよ!」
「メジャーすぎるのは俺の性には合わないんだよな」
「じゃあじゃあ、ライトセー…」
「それもメジャーじゃないか。もっとこう、普通の剣の名前はないのか?」
「うーん…エクスカリバー、ストームブリンガー、竹槍、村正、太陽剣…」
「真面目にやってるかぁ? だいたいなんなんだ、竹槍ってのは」
「竹槍を装備してゾーマを倒すと竹槍がロトの剣になるんだよ」
「なんの話だ? 他にないのか? なんかこう、ちょっとマイナーで、でも由緒ある剣の名前とか…」
「うーん…。あ、グラムドリングはどう?」
「グラムドリング? ふーん…いいんじゃないの」
博斗は、ほっとした。なんか、まともそうで、しかもそんなにメジャーじゃないのになったぞ。
桜もほっとした。人のことを言えた義理ではないが、博斗の注文はなんだか妙なこだわりがあって大変だ。
かれこれ一時間かそこらすると、車は、突然がたんと揺れ、ボコボコと砂利道を走り始めた。
燕が、幌の隙間から外を見続けている由布の裾を引っ張った。
「ねえー、なにが見えるの、ゆふ?」
「色々です」
由布は答えた。
「わたし達の国にはない景色と生活があります。わたし達の国は、とても幸せな国だと、この国を見ていると痛感します。少なくともわたし達は、学校に行くことが出来るんですから」
博斗は、その言葉を聞き逃さなかった。
「そうだ。途上国が貧困から脱出するためにもっとも必要なのは、行き届いた教育なんだ」
博斗は、あやめの鞄を盗ろうとした少年を思い出した。
あの少年は、まだ、十歳かそこらなのではないだろうか。
「…あんな小さい子が、学校に行かずに盗みで生計立てるなんて、間違ってる」
桜が口を挟んだ。
「王子はどう思ってるんだろうね? そういうこと」
「教育実習のとき、色々と話を聞いたよ。あの王子は、女には弱いけど、物事はよく考えてる。自分の国の経済がちっとも豊かにならない原因が、自分でよく分かっているんだな」
「それって、なんですか?」
遥が聞いた。
「大きく二つ。一つは、軍隊さ」
「もう一つは?」
「セルジナ自身みたいな、特権階級の存在さ」
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