一行を乗せたトラックは走り出し、はじめのうちは舗装された道を走っていたらしく、揺れもほとんどなく快適だった。


「ねえ、どのぐらいかかるの?」

燕が博斗に聞いた。


「うーん…空港から百キロぐらいって話だから、二時間ぐらいじゃないか?」

博斗は欠伸を噛み殺して答えた。


「二時間あれば、充分だ」

桜は言うと、荷物の中から何かを取り出した。


「そりゃあ、確か…」

博斗は声を潜めた。


「修理頼まれてたでしょ。どうしても構造が理解できなくて時間かかってたけど、やっとこ、出来たよ。完璧に直ってるし、以前より変換効率を高めてあるから、バッチリだと思う」


そして桜は、木の棒のようにも見える小さな武器を、博斗に手渡した。


「俺に、使えるのかい?」

「うん。使い方は、簡単。一回使ったことがあるんでしょ? だったら問題ないと思うよ。あとは、むしろ、博斗せんせ自身の剣の腕の問題だね」


博斗はたじろいだ。博斗は、うまれたこの方、剣術とか剣道なんてやってみたことがない。

この前だって、やけくそでただ思い切ってやってみただけだ。…う~ん、そのうち由布に剣道を教えてもらわなければ。


「ま、期待してるよ、せんせ。でも、無理しないでね。僕らみたいに、頑丈じゃないんだから」

「ああ」


博斗の心は躍っていた。

以前とは違う。

いまの博斗は、オシリスという、博斗のご先祖の夢をみているなかで、この剣を使っているオシリスと、感覚を共有したことがある。


自在に、この剣を使えそうな気がする。彼女たちに守られるのではなく、彼女たちを守るために、戦うことが出来るかもしれない。


宿敵シータと、自ら剣を交えることが出来るかもしれない。


「あ、そうだ」

桜が言った。

「名前、考えたんだけどね」


「名前って、この剣の?」

とても嫌な予感がする。

「言ってみ」


「レーザーブ…」

「却下」

「えーっ、なんでっ! これで決まりだよ!」


「メジャーすぎるのは俺の性には合わないんだよな」

「じゃあじゃあ、ライトセー…」


「それもメジャーじゃないか。もっとこう、普通の剣の名前はないのか?」

「うーん…エクスカリバー、ストームブリンガー、竹槍、村正、太陽剣…」


「真面目にやってるかぁ? だいたいなんなんだ、竹槍ってのは」

「竹槍を装備してゾーマを倒すと竹槍がロトの剣になるんだよ」

「なんの話だ? 他にないのか? なんかこう、ちょっとマイナーで、でも由緒ある剣の名前とか…」


「うーん…。あ、グラムドリングはどう?」

「グラムドリング? ふーん…いいんじゃないの」

博斗は、ほっとした。なんか、まともそうで、しかもそんなにメジャーじゃないのになったぞ。


桜もほっとした。人のことを言えた義理ではないが、博斗の注文はなんだか妙なこだわりがあって大変だ。


かれこれ一時間かそこらすると、車は、突然がたんと揺れ、ボコボコと砂利道を走り始めた。


燕が、幌の隙間から外を見続けている由布の裾を引っ張った。

「ねえー、なにが見えるの、ゆふ?」


「色々です」

由布は答えた。

「わたし達の国にはない景色と生活があります。わたし達の国は、とても幸せな国だと、この国を見ていると痛感します。少なくともわたし達は、学校に行くことが出来るんですから」


博斗は、その言葉を聞き逃さなかった。

「そうだ。途上国が貧困から脱出するためにもっとも必要なのは、行き届いた教育なんだ」


博斗は、あやめの鞄を盗ろうとした少年を思い出した。

あの少年は、まだ、十歳かそこらなのではないだろうか。

「…あんな小さい子が、学校に行かずに盗みで生計立てるなんて、間違ってる」


桜が口を挟んだ。

「王子はどう思ってるんだろうね? そういうこと」


「教育実習のとき、色々と話を聞いたよ。あの王子は、女には弱いけど、物事はよく考えてる。自分の国の経済がちっとも豊かにならない原因が、自分でよく分かっているんだな」


「それって、なんですか?」

遥が聞いた。

「大きく二つ。一つは、軍隊さ」

「もう一つは?」

「セルジナ自身みたいな、特権階級の存在さ」

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