第三十話「石像殿下(前篇)」原色怪人バタフラムー他登場

第三十話「石像殿下(前篇)」 1

ホルスの声が聞こえた。

(このままでも僕たちの勝利は遠くありませんが、それだけでは、僕たちに逆らおうとした愚か者達への罰として、あまりに軽いとは思いませんか?)


(どうしようというのです?)

イシスは、思念を返した。


(四神官を起動させようかと思いましてね。奴らを、文字通り骨まで叩き潰してやるんですよ)


ホルスの言葉は冷酷で、楽しむような響きさえ感じられた。

イシスは空虚な感情を覚えた。やはりホルスを引き留めることは、出来なかった。


(イシス、お前の助けがあれば、手早く彼らを起動させることが出来ます。明日にでも、作業を始めたいのです)


イシスは顔をしかめた。その表情が伝えられることがないのが幸いだ。

(わかりました。では明日、伺います)


あまり気のすすまないことだが、ホルスの考え方に従う他に、いまのイシスには選ぶ道がなかった。


イシスは、自分がそばにいることで、多少でもホルスの良心の崩壊を食い止めることが出来ればと考えていた。

しかし結果として、ホルスに従い、その片腕となっている自分の姿がある。


イシスは、顔を上げた。従僕の一人が伝えた伝言を思い出したのだ。


イシスは従僕という表現を好まず、同志と呼んでいるが、ホルスはそんなイシスを馬鹿馬鹿しいとせせら笑った。

マヌの忠実な信奉者であるホルスは、上に立つ者には価値があり、下に這いつくばる者達は無数のなかの一つでしかないと、そう考えている。


イシスは、そんな考え方をするようになってしまった兄が悲しく、そして、結局それを止めることの出来なかった自分が、より悲しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る