桜は、率先して腕を突き出し、変身した。

「アームバンド、スクールファイブ、チェンジ!」


「あら、それってなんかかっこいいわね」

遥は目を輝かせた。

「でしょ? やってみ、やってみ」


「OK! アームバンド、チェンジ!」


「まーた、おかしなかけ声増やすんですの~?」

不平を言いながらも、翠も続き、由布と燕は文句を言わずにきっちりと変身を遂げた。


なにせ相手は戦闘員五人。負けるわけがない。

「戦闘員相手だったら、スクールウェーブでも充分なんじゃないかしら?」

レッドは提案した。


「そうだね。無駄に力を消耗するのもなんだし。ひさびさに、それでもいいんじゃない」


特に異議はなく、五人はV字に整列し直すと、両手をバッと頭上に突き上げた。

増幅されたエネルギーがそれぞれの手の間に集まる。空気がゆらりと揺らぎ、耳鳴りのような共鳴が響き始める。


「スクール、ウェーブ!」

五人は手を頭上から振り下ろし、正面の五人の戦闘員に向けて突き出した。

放たれることを待ち焦がれていたエネルギーの波が、五列に並んでどっと流れだす。


「どぉぉぉぉぉっ!」

だみ声とともに、頭上から、青っぽい影が飛び降りてきたかと思うと、スクールウェーブと戦闘員との間に、ひょっこり立った。


青いポリバケツに、にょっきり生えた手足。

「怪人!?」

ブラックが叫んだ。


「飛んで火に入る夏の虫だわ! このまま、いっちゃえ!」

レッドは、構わずスクールウェーブを続け、四人もそれに倣う。


怪人は、自分の胴体よりは若干小さいポリバケツを小脇に抱えていたが、その蓋を外し、ぐいと突き出した。

「この瞬間を待っていた! ムーエネルギー、分別ぅぅぅぅ、収集ぅぅぅぅっ!」


五列きれいに並んで放たれていたスクールウェーブの波が、大きく歪んだ。

ぐっと、雑巾でも絞るかのように五色の光がねじれ、入り乱れ、のたうって収束し、怪人の持つポリバケツに吸い込まれた。

「なにっ?」


ポリバケツは、まるで底無しのように、スクールファイブから送り出されているスクールウェーブのエネルギーをぐんぐんと吸い込んでいる。

その直前で五色の光が飛び散っていて、さながら万華鏡のように美しい光景となっている。


「みんな、スクールウェーブを止めるんだ! このままじゃ怪人にエネルギーを吸い取られるだけだ!」

呼びかけながら、グリーンは、いち早くエネルギーの流れを止めた。


怪人は、素早くポリバケツに蓋をした。

「うへへえ、大漁、大漁。ピラコチャ、ばっちりエネルギーを頂いたぜ!」

怪人が高笑いすると、それに応えるように、ピラコチャが路上に忽然と姿を現した。


「よくやった、ゴミムー!」

ピラコチャは、怪人から、スクールウェーブのエネルギーの詰め込まれたポリバケツを受け取り、大笑いした。

「ざまあないな、スクールファイブ! お前達のエネルギー、たっぷりと借りていくぜ! 戻るぞゴミムー!」


進み出ようとした五人の前に、戦闘員が、なにやら缶を投げつけた。

缶は地面に当たると、しゅーっと白い煙を吹き出した。たちまち視界が失われ、真っ白な世界が広がるばかりになった。


煙が消えたときには、ピラコチャも、怪人も、戦闘員も、完全に姿を消していた。

ただ、戦闘員の放り投げた空缶が転がっているばかり。


「くそっ! ムーの作戦だったんだ! 僕らのエネルギーを盗むための!」

「わたくし達のエネルギーを奪われてしまったのですの?」


「わたし達を誘い込んで、わざとスクールウェーブを使わせた。なぜさらに攻撃せずに逃げたの…? なにか、企んでいる…?」

ブラックは顎に手を当てて考えこんだ。


「悔しいっ!」

レッドは、煙を吹き出した空缶を、思いっきり蹴飛ばした。

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