6
由布は、ふと気になるものを見つけ、道の横の民家に駆け寄った。
「どうしたの、由布?」
由布は、黙って指差した。
民家のブロック塀に、点々と、一メートルほどの等間隔を保ちながら、空缶が置かれている。
「あーあー、ひどいことするのがいるんだねえ」
「きっと、誰かが軽い気持ちで最初に一つ置いたのね。そしたら、みんな真似するようになっちゃったんじゃない?」
遥は、いちばん手前の缶を取った。缶コーヒーのBUSSだ。
昔、ブスジャンプレゼントというのを企画したことがあるらしいのだが、ネーミングが女性に不評でおシャカになったといういわくつきのコーヒーである。
「あー、『ソルトコーラ』があるよ!」
燕が、やや先に行ったところで、別の缶を取り上げた。
それを聞いた桜は狂喜した。
「ソルトコーラ! あの伝説の! 砂糖の代わりに塩を入れたという、あの破壊的にまずいコーラがあるなんて!」
「あら、ここには『フォンタトマト』が」
翠が、また別の缶を取り上げる。
フォンタトマトは、野菜ジュースと炭酸飲料をミックスさせようとした方針が完全に外れた、これまた珍品だ。
「これは…『粒々しいたけウォーター』…」
由布は、缶を前に顔をしかめた。
「しいたけウォーター!」
桜がまた飛び上がって喜んだ。
「生しいたけのエキスにしいたけ果肉入り。こりこりとした、生しいたけの歯ごたえがたまらない逸品!」
「なんなのよ、これ。レアもの展覧会みたいね」
「まだまだ続いていますわ。どこまであるのですかしら?」
「いってみよ!」
「なんとなく、道しるべのような…」
「道しるべ? なんの?」
「ですから、これに気づいた人をどこかに導くための…」
「いーよいーよ、そんなのどっちでも。うひょお、これは、『男爵の黄金水』!」
桜は、歓喜の悲鳴を上げながら、点々と続く空缶の列を追っていく。
仕方なく、他の四人もそれに続き、桜が拾わなかった空缶を拾って集めた。
じきに、五人の両手は缶で一杯になったが、まだ缶は続いている。
途中で缶の列は通りからそれ、脇道に入ってきた。
「…やはり、妙ですね」
由布がぽつりと言った。
「なにが?」
「今朝、これだけの缶を見ましたか?」
「あ、そういえば、そうね。今朝、学校来るときはこんなのなかったわ」
「ということは、今朝から放課後までの数時間で、これだけの数の缶が並べられたということになりませんか?」
「それは妙ですわね」
「そうだ。ソルトコーラも、しいたけウォーターも、この辺に売ってるところなんかないしなあ」
「うーん…」
遥は首をひねった。
桜は、ぽんと手を打った。
「組織的犯罪の匂いがするぞ」
「そしきてきはんざい~?」
そのとき、どこかで、どんがらがっしゃんと何かが崩れる派手な音がした。
「行ってみましょう!」
由布が言った。
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