3
シータは、廊下を歩きながら考えた。
これからいったいどう行動するべきか。
イシスには否定したが、シータは気づいていた。確かに戦うことが、以前のように悦びに感じられなくなっている。
シータは、ムーの文明こそ、蘇るべきものであると確信して行動してきた。
現在の地上の文明は、醜く、洗練されていない。エネルギーを無駄に浪費し、地球という星の死期を早めている。
だが、シータは、思うのだ。ムーの人間達は、死んだような顔の連中ばかりであった。
覇気がなく、誰もが、権力者―シータ達―の指示に従って行動し、生活していた。
それが、洗練された文明を確実に維持させていた徹底した支配の賜物であり、それは必須であると考えていた。
だが、どうなのだろうか。
スクールファイブの五人は、変身する前も、変身してからも、瀬谷博斗とはまるで、指導者と部下というよりは…なんというべきか…。
考えに行き詰まったシータだったが、そこで、遥がよく使う言葉を思い出した。
そう、「仲間」だ。
シータは、ピラコチャやホルスやマヌを、「仲間」と呼べるかどうか疑問に思った。
イシスは…呼べるかもしれない。目指すものは違うが、しかし、イシスには、共感できるところがある気がする。
シータは思う。遥たちとは、あまり戦いたくない。まして、瀬谷博斗とは…。
シータは、胸を締め付けられるような苦しさを覚えた。陽光祭が終わってから、このところいつもそうだ。
陽光祭は、シータ達が行っていた儀礼的祭祀と、はたらきとしては似通ったものだろうと感じた。
つまり、団体の結束を高めるため、一つのシンボルへ向かって共同作業を積むというわけだ。
しかし、そこから受けた印象はまったく違う。シータには、わからなかった。
なぜ遥は、陽光祭が終わった後の生徒会室で泣いていたのだろうか。
泣くというのは悲しいときではないのだろうか?
陽光祭が終わって悲しかったのか?それにしては、そう、怪人を負かしたときのようなすがすがしい表情をしていた。
なにかさっぱりわからない。
ただ、シータは、スクールファイブとはあまり戦いたくないと、そればかりを最近思うようになっていた。
スクールファイブと戦うことに、なんの意味がある? むしろ、いっそこのままピラコチャやホルスを片づけ、総帥を倒し、このまま遥達のなかに自分も入り、ただの地上人として生きていくというほうが…。
はっとしたシータは、首を横に振った。
なんとも恐ろしい夢想をしたものだ。なんという…。
「なんだ、いきなり首振ったりして? フラメンコの練習か?」
シータは、はっと顔を上げた。
瀬谷博斗だ。よりによって、いま、いちばん会いたくない顔だ。
つとめて平静を装い、シータは、いつものように澄ました演技に入った。
「いえ、あの…、ちょっと、髪にゴミがついてたんです…」
「そうかそうか。俺もゴミになりたいなぁ」
「は、はい?」
「いや、こっちの話」
博斗はけろっとした顔で笑うと、シータの横を抜けて歩き始めた。
「あ…」
「じゃ、またな。あ、そうそう、なんか、最近、一段と可愛くなったんじゃないか? ほっぺたとか、赤いぞ」
博斗は、のんきに鼻歌を歌いながらどこかに行ってしまった。
シータは呆然と立っていた。彼の行動は、どうしても理解できない。
もっと理解できないのは、私自身の感情だ。
いったい私は、どうしてしまったのだろう。
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