15

陽光祭は、終わりを告げた。

二日目の混乱を除けば、とくに問題もなく、上々の陽光祭であった。


「さてと」

博斗は腕を組んで正面を見上げた。


博斗と五人の前には、ベニヤ板と角材で組まれ、ペンキで彩色された、丈二メートルは越える頑丈な入場門が立っている。


「これを壊せば、あたし達が用意したものは全部おしまいですね」

遥が門柱をぱたぱたと叩いた。


「こわすのもったいないよ?」

と燕。


「しかたないさ。このままじゃ倉庫に入らないし、それに、今年の分は今年で終わり。来年はまた、来年の生徒会がやるのさ」


「うん…」


「これで、あたし達の陽光祭はおしまい。しっかりケジメをつけよ! 燕、記念の一発、ガーンとやっちゃってよ!」

「いいの? やって?」


皆がうなずいた。


燕は、一歩下がり、そこでとんと軽くステップを踏むと、リズミカルに弾みながら門との間合いをつめた。そして、右足をふっとあげると、力強く繰り出す。


燕の足は門の板に吸い込まれ、板は地面から三分の二ほどのところから真っ二つにへしおれた。


「おしまい。これで、おしまいだね。これで。燕、もっと徹底的に、もう、あとかたのないぐらい壊しちゃって」


燕は返事をしなかったが、動きを止めず、続けて、門柱に攻撃を繰り出した。何回も、何回も。一心不乱に動き回った。


理事長とひかりが博斗達のところまでやってきた。


「陽光祭が終わった。…これで、今年の生徒会の任務は八割がた終わったも同然だ。陽光祭は、彼女たちをひとまわり大きくしたようだな」


博斗は、理事長を見た。

理事長には、理事長なりの苦労がある。

理事長なりのやり方で、博斗達の戦いをかばってきたのだ。


博斗は、ただがむしゃらに、戦うだけ。後先のこともなにも考えていなかった。


理事長は、博斗達の知らない多くのことを知っている。

たとえば、パンドラキーの場所。

その責任から逃れずにいることは、どれだけの重さなのだろうか。

実際にパンドラキーを手にしたことなどない博斗にはそれはわからない。だが…。


博斗は、理事長を正面から見据えた。

「俺は、まだ、あなたのことを好きになったわけじゃないですが…あなたが背負い込んでる苦労を、少しは知ってみるつもりになりました。まあ、ひかりさんに言われたからですけど…」


「私は、今まで通りだ。そして、君も。それで、いいんだよ」

理事長が右手を差し出した。

「これからが、本当の戦いだ。あらためて、よろしく頼む」


博斗は、理事長の右手をがっと握り返した。

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