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「えいくそっ! みんなはどうなった!?」
博斗が踊り場に来たところで、天井近くに据えつけられていたスピーカーがぐらりと傾き、博斗めがけて落ちてきた。
「うおっ?」
博斗はとっさに両手を広げてスピーカーを受け止めたが、その重さと勢いに圧倒され、無様に床を転がり、背中と肩をしたたかに打ちつけた。
スピーカーがむくむくと膨れ上がった。
スピーカーを丸ごと大きくしただけのずさんなデザイン。こりゃ一発でわかる。
「くそっ! お前、何者だ!」
博斗は言った。まあ、わかりきってはいるのだが、時間稼ぎをしなければ。
怪人はガガッと軽くハウリングを起こして、博斗の前でポーズをとった。
「騒音怪人、スピカムー! スクールファイブに倒された兄者のかたきを討ちに来た」
「なに…兄って…?」
「俺の兄者は、マイクムー!」
「マイクムー…そうか、生徒総会を襲った奴だな!」
「お前、兄者を知っているのか…なるほど、お前がボスだな。奴らは始末した。あとはお前だ」
「…始末!?」
遥達がすでにやられたというのか。
やばそうな雰囲気だ。
こいつはいつもの怪人とはテンポが違い、間の抜けたところがない。
おそらく、復讐心に支配されているのだ。
博斗はそれでもとりあえずファイティングポーズをとった。
生身の博斗でも、死ぬ気で戦えば、少なくともダメージぐらいは…与えられる…はず…と…思い…たい…。
もうやけくそだ。
「うりゃっ!」
博斗はスピカムーに拳を繰り出した。
たかがスピーカーのはずだというのに、堅い衝撃が拳を伝わってきて、博斗は顔を歪めた。
…やっぱり、生身で戦うものじゃない。
いまさらながらに博斗は五人の苦労を知った気がした。
「むうんえあっ!」
スピカムーは、突き出されたまま震えている博斗の腕をむんずと引っ張った。
反動で博斗の体は大きくつんのめり、木切れかなにかのように跳ねてスピカムーを飛び越え、反対側の床に吹っ飛ばされた。
博斗は咳き込み、もんどりうった。背中を打って、息が出来ない。
眼前にスピカムーが仁王立ちしている。
「兄者の仇討ち。死ね」
スピカムーのスピーカーコーンがぶるぶると振動を始める。
こ、殺される。
そこから放たれる衝撃波が、博斗の体を、砕かれている廊下の壁と同じようにぐしゃぐしゃに砕くだろう。
想像した博斗は、やや吐き気を覚えた。どうせ死ぬなら、もう少し美しく死にたかったもんだ。
俺が死んだら、みんなは、悲しむだろうなあ。陽光祭は、どうなるんだろうなあ。
一瞬のうちに、驚くほど多くのことが頭を駆け巡った。
そうか、これが「走馬灯のように」っていう奴だな。
くそっ! くそっ! 俺は、死ぬのか!
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