来校者と陽光生が入り交じり、歩き回るなかを、博斗もまた、きょろきょろとしながらポケットに手を突っ込んでぶらぶらしていた。

クラスの企画を見てまわるのももちろん、どこかに妙な影でもいやしないかと、そっちのほうにも気を配りながらの巡回だ。


事件は思いがけないかたちで起こった。

なんとなく、耳にキンキンと響く奇妙な音が聞こえたかと思うと、どこかで、ガラスの割れる音がした。


辺りを見回した博斗は、一号館の壁に沿って、キラキラと輝くガラスのかけらが舞い下りているのを見た。

二階だ。二階の窓がすべて割れて落ちている。


博斗は尻ポケットからトランシーバーを取り出すと、生徒会室を呼んだ。

「桜君、なにか、起きたらしい。わかるか?」


「え? ちょっと、そのへんの様子見てきて」

桜が、生徒会室にいる燕に声をかけたらしい声がした。

「なにかあったの? 僕はなんにも知らないけど。ひかりせんせからも理事長せんせからもなんにも連絡ないし」


そう言えばそうだ。博斗のトランシーバーも呼び出されなかった。

じゃあ、ガラスが割れたのは、ただ、喧嘩かなんかでもあっただけなのだろうか。だが、それで一面のガラスが全部砕けるなんてことがあるか?


「燕が帰ってきた。え? 変な音? …はくとせんせ、よくわかんないけど、なんか起きたみたいだ! スピーカーから変な音が流れてるって! 生徒会室はボリューム下げてるからよくわかんなかったみたいだ。遥達がいま騒ぎを止めようとしてる。ちょっと行ってくる」


博斗は険しい顔つきになった。

屋外はスピーカーからの音は拡散されてはっきりとは聞こえないためか、生徒達も来校者達も、何事もなく陽光祭を楽しんでいる。

だが、校舎内では混乱が起き始めているようだ。かすかに悲鳴が聞こえる。


博斗は、念のためにトランシーバーで司令室を呼び出してみた。

しばらく誰も応えなかったが、理事長のかすかな声が聞こえてきた。


「瀬谷君…。油断した。有線の音声におかしなところがあってな…解析しようとした途端、直接聞かされたよ。…私と酒々井君は動けそうにない。…頼む」


博斗はトランシーバーをポケットにねじこみ、戻すと、一号館に向かって走り出した。

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