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いっぽう博斗はといえば、スクールファイブの戦いに気を配るどころの話ではなかった。


博斗の眼前には、シータが立っていた。

「瀬谷博斗」

シータは顔を博斗の後ろのアンドロメダのほうにちらりと向け、すぐに戻した。


「自動車も空を飛べば免罪というわけか」

シータはさも可笑しそうに言った。

「地上の人間達の考えそうな姑息な弁解だな」


博斗は眉をひそめた。やはりシータは、まだ車社会のことで博斗を追及するつもりなのだろうか。

「くどいぜ、シータ。しつこい女は嫌われるぞ」

「はっはっはっはっ。お前に嫌われて、何が困る? …もっとも、お前が改心したというのなら別だがな」

「なにが改心だ。俺は、なにも変わらない。いままで通りだ」

「それならば、お前達はこの文明を正当だというのだな」


博斗は何も言わなかった。やはり、何か違う。

博斗は、シータの考えに相通じるところがあるのだが、しかし、何かが違う。


「ほんとうに、そう思っているのか? お前は、なにかためらいをもっている。私と同じ考えを、心のどこかに秘めているのではないか?」


シータは、博斗を懐柔しようとしている。理由は単純だ。

博斗が、スクールファイブの精神的支柱だからだ。博斗を手中にすれば、スクールファイブは敵ではない。

シータは、戦いを通じてそれを察知したに違いない。


博斗は、考えのまとまらないまま、ぼんやりと口を開こうとした。


そのとき、博斗の盾になるように、シータとの間に、黒い影が舞い下りた。ブラックだ。

「キャップ…お守りします」


博斗の前で、ブラックと、シータと、二つの黒い影が間合いをとって対峙した。

ブラックとシータとは、戦い方に似ているものがあるのかもしれない。お互いに、値踏みするように見合ったまま動かない。


同時に二人は突っ込んだ。

シータの剣がぶうんと唸りをあげて鋭く弧を描くと、ブラックは刀を地面に突き立て、それを支柱にして大きく宙返りし、シータの頭上を越えた。


ブラックは地面に立つと同時に刀の鍔を返して横にかざし、シータに斬りかかったが、シータは正面でその刀を受け止め、払った。


「お前…そうか」

シータはゆっくりと間合いをつめた。

「お前は、あの女か」


ブラックは、油断なく刀を構えたまま、つめられた間合いを、すぐに元どおりに広げた。


「お前は、穢れている」

シータは呟いた。

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