11
いっぽう博斗はといえば、スクールファイブの戦いに気を配るどころの話ではなかった。
博斗の眼前には、シータが立っていた。
「瀬谷博斗」
シータは顔を博斗の後ろのアンドロメダのほうにちらりと向け、すぐに戻した。
「自動車も空を飛べば免罪というわけか」
シータはさも可笑しそうに言った。
「地上の人間達の考えそうな姑息な弁解だな」
博斗は眉をひそめた。やはりシータは、まだ車社会のことで博斗を追及するつもりなのだろうか。
「くどいぜ、シータ。しつこい女は嫌われるぞ」
「はっはっはっはっ。お前に嫌われて、何が困る? …もっとも、お前が改心したというのなら別だがな」
「なにが改心だ。俺は、なにも変わらない。いままで通りだ」
「それならば、お前達はこの文明を正当だというのだな」
博斗は何も言わなかった。やはり、何か違う。
博斗は、シータの考えに相通じるところがあるのだが、しかし、何かが違う。
「ほんとうに、そう思っているのか? お前は、なにかためらいをもっている。私と同じ考えを、心のどこかに秘めているのではないか?」
シータは、博斗を懐柔しようとしている。理由は単純だ。
博斗が、スクールファイブの精神的支柱だからだ。博斗を手中にすれば、スクールファイブは敵ではない。
シータは、戦いを通じてそれを察知したに違いない。
博斗は、考えのまとまらないまま、ぼんやりと口を開こうとした。
そのとき、博斗の盾になるように、シータとの間に、黒い影が舞い下りた。ブラックだ。
「キャップ…お守りします」
博斗の前で、ブラックと、シータと、二つの黒い影が間合いをとって対峙した。
ブラックとシータとは、戦い方に似ているものがあるのかもしれない。お互いに、値踏みするように見合ったまま動かない。
同時に二人は突っ込んだ。
シータの剣がぶうんと唸りをあげて鋭く弧を描くと、ブラックは刀を地面に突き立て、それを支柱にして大きく宙返りし、シータの頭上を越えた。
ブラックは地面に立つと同時に刀の鍔を返して横にかざし、シータに斬りかかったが、シータは正面でその刀を受け止め、払った。
「お前…そうか」
シータはゆっくりと間合いをつめた。
「お前は、あの女か」
ブラックは、油断なく刀を構えたまま、つめられた間合いを、すぐに元どおりに広げた。
「お前は、穢れている」
シータは呟いた。
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