5
礼を済ませ、博斗はしきりに首をひねりながら廊下に出た。
もう一度腕時計を見たが、やはりあと十分以上時間が残っている。
しかしなにかか、変だ。
教室の後ろのドアが開く音がした。
「ちょっと、トイレだよ」
教室の中にささやきながら、燕がちょろんと出てきた。
「燕君…出ちゃ駄目だって言ったろ?」
博斗は燕に近づくと、頭を軽く小突いた。
「だって、はくと、見てこれ」
燕は左の腕を持ち上げて、博斗の顔の前に突き出した。
「?」
博斗は目を凝らして智恵たんデザインのC-ショックを見た。
なにか、おかしい。
自分の腕時計を見たときと同じ違和感がやってきた。
「とけい、止まっちゃったの」
燕が顔を曇らせた。
「そうか。電池が切れたんだな」
博斗はふと、自分の腕時計を見た。
秒針が、ぴくりとも動いていない。
「俺のも電池切れか?」
博斗は指で自分の時計を示した。
「どうなってるんだ、これは?」
博斗はガラス窓から教室を覗いた。黒板の上の時計も、いまだに半を示している。
「どうなってんだ? どの時計もそろいも揃って止まったみたいだ」
博斗はつぶやくと、肩をすくめた。わけがわからない。そういえば、チャイムもいまだに鳴らない。
くいくいと博斗の服の裾を燕が引っ張った。
「はくと、あれ」
燕は廊下の片隅を指差した。
そこには、大きな固まりがあった。
木の箱のようだ。一辺二メートルはあるのではないか。黒に近い茶色で、表面はてかてかと輝いている。
燕はひょこひょこと走り、木の箱に近づいた。
「はくとー、これ、とけいだよ」
「時計?」
燕の時計も、博斗の時計も、教室の時計もすべて止まっている。その代わりといってはなんだが、廊下に巨大時計。
「燕君、待て、その時計は、ひょっとすると…!」
博斗は燕を制したが、遅かった。
「つんつくつん」
燕は巨大時計のガラス張りの文字盤をつついた。
突然、箱の横からにゅるりと手が伸び、燕の両腕をつかんだ。
「にゃーーっ?」
時計はひとりでにがたがたと動き、のっそりと起き上がった。手だけではない。二本の足もある。間違いない。これは、怪人だ。
怪人は、燕の抵抗をものともせず、ぐっと文字盤を燕の手首に近づけた。おそらく、文字盤が顔になっているのだろう。
「ねえちゃ、ん、かわい、い時計だなあ」
奇妙な息の継ぎ方をする怪人だ。
怪人は、ぺたぺたと燕の智恵たん仕様C-ショックを撫で回した。
「俺は、時計のこ、とは詳しいんだ。これはわ、ざもんだな」
「つばめの智恵たんにさわるなっ!」
燕はようやく怪人の手を振り解くと、二転三転と宙返りして距離をおき、博斗のそばまで戻ってきた。
「乱暴なね、えちゃんだな。嫁の貰い手がな、くなるぜ?」
「だいじょうぶだもん! つばめ、はくとのおよめさんになるから!」
「あ、ありがとうございます! い、いやっ! と、とにかく、お前は何者だっ?」
怪人は立ち止まった。ガラス張りの文字盤は、短針が12の直前、長針が11を指している。博斗は直感した。11時55分。これが、いまのほんとうの時間に違いない。
「時計、怪人タイムー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます