9
三人の乗ったリムジンが校門の手前に滑り込んだ。
「暁! ここで止めて!」
突然、翠が暁を制した。
暁がブレーキを踏みこみ、悲鳴を上げて車は停止する。
「あれは、なんですの?」
「?」
博斗は胸騒ぎをおぼえて外に出た。
校舎全体が、霧のように濁った空気に包まれている。
翠は外に出ると暁に命じた。
「暁、もうよろしいですわ。お帰りなさい」
「翠様、くれぐれも無理をなさらぬように」
「ありがとう、暁」
リムジンは、ゆっくりとバックし、角を折れて二人の視界から消えていった。
「さ、キャップ。…あのふざけた真似をやめさせたほうがよろしくてよ」
「俺が学校を出るときにはなんともなかったが…。みんなはどうなったんだ?」
「いってみませんですこと?」
校門の目前まで来て、翠は体を電柱の陰に隠した。
博斗は翠に寄り添うようにして同じく隠れる。
「校門に、戦闘員がいますわ」
「占領されたのか? 門番のつもりか」
「ふん。私たちの学園を乗っ取ろうったって、そうはいきませんですことよ」
「ちょっと待て」
博斗は翠を止めた。
「なんですの?」
「校舎の中がどうなっているかわからないんだ。もし遥君達もつかまっている場合を考えると、よけいな騒ぎを起こさないほうがいい」
「では、どうしろとおっしゃいますの?」
「奴らに気付かれないように校舎に入れないもんかな」
「それでしたら!」
翠は言うやいなや博斗の手を引っ張った。
「こっちですわ!」
翠は校門から離れ、陽光学園の敷地沿いにぐるりとまわった。テニスコートの裏だ。
「ここの木の陰に、フェンスが破れているところがあるのですわ」
言いながら、翠はさっそくその切れ目に体を滑りこませた。
博斗と翠はテニスコートから、木陰を抜けるようにして校舎に走った。
霧だと思っていたものは、どうも、細かな粉のようなものらしい。
その粉を吸った博斗は、なんとなく頭が重くなったような気がして、しきりに首を振った。
「キャップ…なにか、おかしいですわ」
「ああ。…どうも、この粉が気になる」
博斗は、素早くあたりを見回した。このあたりにはまったく人影がない。
「いまのうちに、変身しておいたほうがいい。頼む」
「わかりましたわ。…結局、これがわたくしの、わたくしである証なのですわね」
翠は呟くと、輝いた。
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