三人の乗ったリムジンが校門の手前に滑り込んだ。


「暁! ここで止めて!」

突然、翠が暁を制した。


暁がブレーキを踏みこみ、悲鳴を上げて車は停止する。


「あれは、なんですの?」


「?」

博斗は胸騒ぎをおぼえて外に出た。

校舎全体が、霧のように濁った空気に包まれている。


翠は外に出ると暁に命じた。

「暁、もうよろしいですわ。お帰りなさい」

「翠様、くれぐれも無理をなさらぬように」

「ありがとう、暁」


リムジンは、ゆっくりとバックし、角を折れて二人の視界から消えていった。

「さ、キャップ。…あのふざけた真似をやめさせたほうがよろしくてよ」


「俺が学校を出るときにはなんともなかったが…。みんなはどうなったんだ?」

「いってみませんですこと?」


校門の目前まで来て、翠は体を電柱の陰に隠した。


博斗は翠に寄り添うようにして同じく隠れる。


「校門に、戦闘員がいますわ」

「占領されたのか? 門番のつもりか」

「ふん。私たちの学園を乗っ取ろうったって、そうはいきませんですことよ」


「ちょっと待て」

博斗は翠を止めた。


「なんですの?」

「校舎の中がどうなっているかわからないんだ。もし遥君達もつかまっている場合を考えると、よけいな騒ぎを起こさないほうがいい」


「では、どうしろとおっしゃいますの?」

「奴らに気付かれないように校舎に入れないもんかな」


「それでしたら!」

翠は言うやいなや博斗の手を引っ張った。

「こっちですわ!」


翠は校門から離れ、陽光学園の敷地沿いにぐるりとまわった。テニスコートの裏だ。

「ここの木の陰に、フェンスが破れているところがあるのですわ」

言いながら、翠はさっそくその切れ目に体を滑りこませた。


博斗と翠はテニスコートから、木陰を抜けるようにして校舎に走った。


霧だと思っていたものは、どうも、細かな粉のようなものらしい。

その粉を吸った博斗は、なんとなく頭が重くなったような気がして、しきりに首を振った。


「キャップ…なにか、おかしいですわ」

「ああ。…どうも、この粉が気になる」


博斗は、素早くあたりを見回した。このあたりにはまったく人影がない。

「いまのうちに、変身しておいたほうがいい。頼む」


「わかりましたわ。…結局、これがわたくしの、わたくしである証なのですわね」

翠は呟くと、輝いた。

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