12
国道をふらふらと行く一台のワゴン車の姿があった。
「もう一日いるんじゃなかったんですの?」
翠はさっきから同じことをぶつぶつと言っている。
「しょうがないじゃない。いまから帰らないと予定通りに帰り着かないんだから」
「無理したせいで、ギアが一速にしか入らなくなってしまったんです」
「ムーは、あんなロボットを造れるほど偉大な文明だったんだ。それが、なぜ滅びたんだろう」
桜は一人ごちた。
「諸行無常。盛者必衰の理をあらわす」
由布が紡いだ。
「平家物語か…でも、僕が知りたいのはそんな漠然とした話じゃなくて、もっと具体的な…何が、滅びの端緒になったのかっていう、そういうことが…」
「裏切りがあったと、私は聞いています」
ひかりが言った。
「裏切り?」
その言葉を聞いた博斗は思った。なんと虚しいのだろう。
宇宙をも支配できるほどの科学力と軍事力を持ちながら、その滅びのきっかけが、人間の心のわずかな揺らぎだったとは。
「俺は、気付いたんです」
博斗は誰にともなく一人で喋った。
「タイタンを使えば、確かに、俺は世界中の何もかも手に入れることができる。…でも、同時に何もかも失ってしまうって」
「先生、なに言ってるの? なんか、よくわかんないです」
遥がきょとんとして、ルームミラーの博斗の顔を見た。
「わからなくて、いいのさ」
「タイタンで、ムーの本拠地を攻撃しようとは考えなかったのですか?」
ひかりが尋ねた。
「シータとの誓いを思い出しました。シータは誓いを守って、俺達を攻撃せずに姿を消しました。だから、俺も誓いを守って、今回はムーを攻撃するのは止めようと思ったんです。どうせどこかの理事長は、余計な手間が増えたって怒るんでしょうけど」
「いや、私は怒らんよ。もしその逆だったとしたら、おそらく君はタイタンから離れることは出来なくなっただろうからね」
「…そうです。俺には、力があることがわかりました。そして使い方を間違えれば、俺は第二のムーにだってなれる」
「うそ、博斗先生!」
「でも俺はそうはならないさ。俺がほしいのは、世界中の金とか、権力とか、無数の女とか、そんなのよりさ、もっと素朴などうでもいいような、ちっぽけなものなんだよ」
…たとえば君達の、その屈託のない自然な笑顔。そういうものがあれば、それで俺は幸せだ。
アンドロメダ号はがたがたの車体を揺すりながら、時速二十キロで陽光市を目指してのんびりと戻っていくのであった。
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