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「動力系統、正面装備ともに問題なしですね」
ホルスは、小さな三角錐の紫水晶を手のひらで包みこむようにしていた。
ピラコチャはホルスの肩を叩き、下卑た笑い声をあげた。
「すげえな。最小の威力に絞って、それであれか。海が割れたぜ」
「タイタンを取り戻したいま、もはや我々にパンドラキーは必要ありません。タイタンの恐怖の前に、すべての人類は我々の前に降伏し、ひざまずくでしょう」
「再び、俺達の時代がくるんだな!」
「その通りです。タイタンの前では、スクールファイブとて一瞬で消炭ですとも。シータさんが、奴らに降伏を勧告しに行くと言っていましたね」
ホルスは押し殺した笑い声をあげた。
「スクールファイブの邪魔さえなければ、世界はまさに我々の思うがままですよ」
「お前もじれったいぜ。こんなすげえ兵器があるんなら最初から使えばいいのによ」
ホルスは水晶の上で手を滑らせた。頭上に映し出された映像が動き、よどんだ空を見せた。
「僕も、まだ記憶がぼんやりしているのですよ。この場所を思い出すのに随分と時間がかかってしまいましてね」
「まあ、これで、総帥もご機嫌だろうぜ。うっはははは」
「さあ、どこに行きましょうかね? ひとまず大阪か、それとも東京か?」
ピラコチャは画面を指した。
「ちょっと待て、ホルス。…獲物が来た」
ごま粒のような大きさのものが次第に近づいてくる。自衛隊の偵察機であった。
タイタンは、腕をぴたりと体につけると、体を前に倒し、完全に水平な状態で静止した。
そして突然加速し、滑るように飛び出した。
タイタンはそのまま弾丸のように突き進み、正面からやってきたちっぽけな偵察機を、虫か何かでも弾くかのように砕いた。
小さな爆発が起こり、偵察機の破片が海にばらまかれていく。乗り手は、我が身に何が起きたかもわからぬ間に、空に散った。
いっぽう、タイタンのつるつるした頭部には、焦げ目一つつくことはなかった。
「人類は、再びムーの力のもとにひれふすのです。地上人類のもつどんな兵器、そう、核兵器でさえも、宇宙金属で出来たタイタンには傷一つ負わせることは出来ない!」
ホルスはからからと哄笑した。その笑い声に重なるように、ピラコチャの醜い笑い声もまた、響き渡った。
激しい雨と風のなか、鈍く輝きながら空に悠然と浮かぶタイタンの姿は、まさに、あまたの神話が語り継いできた、神に等しい力を持つ悪魔そのものであった。
タイタンは、不気味な稼動音を響かせながら、宙に浮かんでいた。
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