階段を一段抜かしで飛び降りた遥は、そこで、予期せぬ後ろ姿に気付き、狂喜して駆け寄った。


素早く近づいて、ちょちょんと背中をつつくと、博斗がゆっくりと振り返った。

「おはよう、遥君」

「おはようございます、先生!」


「今日も朝から元気だな、遥君は」

「はいっ! あたしはいつでも元気ですよ、それだけがとりえですから!」

「そうだな。元気な遥君は、とても可愛いと思うよ」


「きゃーっ、博斗先生、可愛いだなんて、またまた」

「ま、ほんとうのことだからな。俺は、遥君のそういうところが好きだよ」


遥は、いつものように博斗がからかい半分で言っているのかと思ったが、遥を見おろす博斗の視線は、優しく遥を見つめ、真剣そのものである。


「や、やだな、もう」

遥は、あまりの恥ずかしさに博斗のその眼を正視できず、うつむいた。


博斗と遥は、改札を出て、並んで歩きはじめた。

「明日から夏休みですよ! あたし、夏休みはうれしいけど、先生に会える日が減っちゃうのが寂しいな」


「そうだな。俺も残念だ。遥君に会うために学校来てるようなものだからな」

「えっ? や、やだな、先生、今日なんか変ですよ」

「変なもんか。生徒会顧問も、遥君がいるからやっているようなものだし。俺はいつでも遥君を見てるんだぞ」


「…」

遥に、これら直球のセリフの効果はてき面で、すでに耳の先までゆでだこのようになっている。


二人は、陽光学園への緩やかな上り坂にさしかかっていた。

「あ、あの!」

しばらくうつむいていた遥は、顔を上げた。

「今日は、博斗先生、学校行くの遅いですよね。…いっつも、もっと早いのに」


「なんとなく、遥君に会えそうな気がしたんだ。なんというのか、心が呼び合ったというのかな」

「心が、なんて…もう、あたし、なんて言ったらいいか。こうして、一緒に登校できるんだし…あたし、とってもうれしいです」


「そうだな」

博斗は相づちを打った。

「俺も幸せだ」

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