それから、瞬く間に日が過ぎ去っていった。


博斗と燕は、教員室で放課後の勉強を続けた。


ほんのわずかとはいえ、進展はあったかに見えた。

七夕の一件以来、燕は博斗との勉強の間は、決して眠ろうとしなくなった。


それは、博斗からのキーホルダーを壊されてしまったことに対する、彼女なりの精一杯の謝罪の気持ちだったのかもしれない。

博斗も、そんな燕がいとおしく、まさに全身全霊を傾けて、なんとか燕を赤点の窮地から救おうと、数日間必至の努力を続けた。


かくして期末テストは終わり、採点の結果を待つばかり。


博斗は、はやる胸を押さえながら、理事長室に体を滑りこませた。

「来たな、瀬谷君」

「り、理事長…燕君の成績は…?」


理事長は無言で一枚の紙切れを差し出した。

「国語1、数学1、英語1、化学1、世界史2…」

「どの科目も、中間との平均は1.5だ。まったく、ぎりぎりだよ。はっはっはっ」

理事長が、珍しく声を立てて笑った。


「俺の世界史だけ2? あ、はっははははは、やったぜ燕君!」

博斗は紙切れをくしゃくしゃに握り締めると、わき目も振らず理事長室を飛び出した。


「燕君、よくやった! 期末テスト、クリアしたぞ! 補講はなしだ!」

「ほんと!?」


「やったね、燕」

桜が燕の頭をぽんぽんと叩いた。


「むふふふふふ。燕君、期末テスト、よく頑張りました。キーホルダー壊れちまったからな、これ、代わりだ」

博斗は後ろ手に隠していたものを前に出した。


「あーーーーっ! 智恵たん!」

燕は大きな声を上げると、智恵たん巨大ぬいぐるみを抱きしめた。

「はくと、だいすきっ!」


博斗はぽりぽりと鼻の頭を掻いた。

たまには、柄にもないことをするのもいい。おかげで、アキタコマチも手に入ったことだし。一つだけ、始末があるが。


で。

それから一時間ほどして。


「なんです、これ?」

ひかりは目を丸くして、博斗がひいひい言いながら保健室に持ち込んだダンボール箱を見ていた。


「は、はははは。慈善事業の名残です。ちょっと、多くなりすぎてしまったもんで。保健室で使ってください」


ひかりは、博斗がダンボールから取り出した大量のにこにこ銀座手ぬぐいを見て、きょとんとするばかりであった。

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