一日の授業が終わると、博斗はセルジナに声をかけた。

セルジナはだんだんと落ち着きを取り戻していったのだが、どこのクラスでも怒涛のような質問攻めに会い、授業をできたクラスなど一つもなかった。


「とっても、疲れましった」

「うちの生徒は、ちょと変わった子が多いですからねえ」

「今日は、ぜんぜん授業できませんでしった。ソーリィです、ミスタ博斗」


博斗たちの後ろから、聞きなれた快活な声が響いた。

「博斗先生!」

たったっと足音がして、博斗の前に遥が回り込んだ。次いで稲穂が追いついた。


「何の用だい?」

「あたしは、体育祭のことで…」

そう言えば、体育祭までもう一ヶ月を切っている。早いものだ。


いっぽう稲穂はセルジナに顔を向けた。

「あの、セルジナ先生」

「ハイ?」

「私、陽光アワーズっていう校内新聞書いてるんです。それでインタビューしたくて。セルジナ先生、人気高いですから」

「オーウ!」


博斗は先立って教員室に入り、遥達が後に続いた。


セルジナは、博斗の机の棚に乗っていた小瓶を手に取った。

「エロガンダ…でしたっけ」

「イエス」

「この花…確か…」

稲穂は何かを言いかけて口をつぐんだ。


「なんか、知ってるのかい、稲穂君?」

「い、いえ…ただ、私の知っているある植物とそっくりなので…」

「ふーん、どんな奴だい?」

「血を吸うんです」

「はあ?」

「水の代わりに、動物とか虫の血を吸って生きる植物なんです」

「そ、そんなものがあるのか?」

「…え、ええ」

稲穂は言葉を濁した。


そこに、セルジナがエロガンダの瓶を片手に割り込んできた。

セルジナは、エロガンダを稲穂に、そして遥に近づけた。

花が開くような様子は微塵もない。


「オウ。外れでしった」

「ほんとに見つかるのかねえ」

「必ず、見つかりまっすよ」

セルジナは、目をきらきらさせてエロガンダを見つめていた。

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