10
次の瞬間、博斗はひかりを後方に突き飛ばし、自分は戦闘員に体当たりしてそのまま広場に転がった。
「逃げろ、ひかりさん! 彼女たちを呼ぶんだ!」
ひかりは一瞬躊躇したが、すぐに駆け出した。
あれよあれよという間に、博斗はすっかり戦闘員に囲まれた。
戦闘員の一人が、なにやら耳慣れない言葉で叫んだ。おそらくムーの言葉だろう。
その言葉はどうやら、怪人をよばわるものだったらしく、水に足(?)をひたしていた怪人が、もそもそ水を滴らせながら博斗に近づいてきた。
「おい、人間、こんなところになんの用だ?」
幸い、怪人は博斗がスクールファイブの仲間だとは気づいていないようだ。それならば、何も知らない善良な観光客のフリでもしているのがいちばん賢明だろう。
「い、命だけは助けてくれ! お、俺はただ道に迷っただけなんだ!」
博斗は叫ぶと両手を前で合わせ、怪人に懇願した。
「待て! その男を逃がすなよ」
怪人の背後に、見たことのある姿がある。ムーの幹部らしき派手な衣装の奴だ。
「こ、これはアネさん。いったいどういうわけで?」
と怪人。…アネさんというからには、あの幹部、女なのだろうか? 確かに言われて見ると、男にしては小柄だ。
「この男は、間違いなくスクールファイブの居場所を知っているぞ」
「な、なんですと!」
新たに登場した幹部らしき女は、すっと博斗に近づいた。
全身を漆黒の革鎧に包み、膝や肩などの要所に、極彩色の金属片があててある。かなり実戦的な格好だ。
顔に当たる部分は、無表情なこれまた漆黒の仮面で覆われており、表情はわずかたりとも窺い知ることが出来ない。
「スクールファイブはどこにいる?」
「スクールファイブ? なんだい、それは?」
「とぼけても無駄だ。お前がスクールファイブの指揮者だ。違うか?」
「スクールファイブねえ? 人違いじゃないの?」
「時間稼ぎでもしているのか? 瀬谷博斗」
「!」
博斗はどきりとした。
「な、なぜ俺の名前を知っている?」
黒き仮面は答えない。ただ自分の言葉を続けた。
「時間を稼いでも構わないぞ。私の目的はスクールファイブに会うことだからな。大いに結構だ。せいぜい待つとしよう」
博斗は苦い顔をした。この女の計算高さと、異常なまでの落ち着きは、それだけで恐怖に値する。もう一人いた、あの単純そうな巨漢よりも、この女のほうがはるかに恐ろしい。
博斗は作戦を変更した。出来る限り、この女から情報を聞き出そう。
「お前は、何者だ? なぜスクールファイブのことを知っている?」
「愚問だな。奴等こそ我々の怨敵だ。目的への最大の障害を除去しようとするために手を尽くすのは至極当然の事だろう?」
そして女は立ちあがった。
「私はシータ。参謀と呼ぶ者もいる」
「シータ…」
博斗は反芻した。
その漆黒の仮面にはどんな素顔が隠されているのだろう。
博斗は、このシータという女幹部に恐れを抱くと同時に、興味とも言うべき不思議な感情が芽生えている事に気づいた。
そんな博斗の微妙な変化を察知したのだろうか、シータはすっと立ち上がると、怪人たちに指示した。
「この男を縛り上げて逃げられないようにしておけ。見かけ以上にきれる男だ。油断するな」
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