「ま、まあ、いますぐにという問題ではありませんから。…ゆっくり対処していけば、なんとかなりますよ」

ひかりが優しく声をかけ、へばった博斗の肩を軽くほぐす。


「う、うーん。ひかりさんに言われるとなんとなくそんな気がしてくるんだが…あ、そうだ、転入生の飯塚稲穂って子はどうなんだ?」

「飯塚、稲穂ですか?」

「ああ。おととい理事長に言われたんだ。…事情によっては彼女が六人目の戦士になるかもしれないって。かなりの潜在力があるらしい」


「六人目、ですか。…あら? 稲穂という子には、陽光学園に来る前のデータがありません」

「データがない?」

「はい。転入生でも、過去の学校のデータはあるはずなのですが…中学校も小学校も、前の高校のものも、まったくありません」


「そりゃあ、どういうことだい?」

「実用上問題がないので、データが届く前に事務処理をしてしまったのだと思いますが…? 理事長に聞いてみてはいかがです?」

「理事長ねえ。…なーんか、苦手なんだけど、ま、しょうがない」

博斗はヘッドセットをつけると、理事長室を呼び出した。


「理事長、俺です。瀬谷博斗です」

「ああ、どうしたのかね?」

「あのー、昨日転入して来た飯塚稲穂についてなんですが…」

「彼女が、何か?」


「彼女は、前にどこの学校にいたんです?」

「さあ、どこだろう? 私は知らないが」

「はあ? じゃあ、誰が知ってるんです?」


「本人以外は誰も知らんだろう」

「なんです、そりゃあ? そんなので転入できるんですか?」

「うむ。陽光学園の選抜方針はムーの力があるかどうかだからなあ。それ以外はどうでもいいんだよ」

「はぁ。これだもんなあ」


「まあ、それにしても確かに彼女は変わっていたがね」

「変わっていた? 何がです?」

「いやね、突然ふらっとやってきたんだよ。転入したいんですと言ってな」

「ふらっ、と?」

「うむ。何の連絡も何もなしにな。そう、ちょうど酒々井君のときもそんな感じだったな」


博斗は横目でちらりとひかりを見た。そう言えば俺は、ひかりさんのこともよく知らない。…なんだかこの学園には、わからないことだらけだ。


「じゃあとにかく、稲穂君についての過去のデータはないんですね」

「うむ、そういうことだ」

無責任に言い放つと、理事長は回線を切った。

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