第120話 最強にして最低最悪
歩美さんはちょっと肩をすくめてみせる。
「私の魔法は『握りつぶす』専用ですから。ですから『闇の右手』なんです」
「それでいいじゃん。僕の勝ちを『握りつぶす』つもりで戦ってくれよ。前よりもう少しは強くなったつもりだからさ」
歩美さんはにこりと笑う。
「では、次の合宿ではちょっと本気を出しましょうか。今回の敵より楓さんの方が間違いなく戦い甲斐がありそうですから」
「ああ、頼むな」
歩美さんが小さく頭を下げ、そして去って行った。
「どういう事?」
未来さんの疑問に楓さんが口を開く。
「未来予知魔法ってのは色々鬼門でね。何せ普通はほぼ予知通りに色々と実現してしまう。いいことも悪い事もだ。
でも印象に残るのは悪い事が実現した場合が多い。そんなのが続くとだんだん不安になる訳だ。起こる事を予知しているのか、予知した結果起こってしまったのかさえわからなくなる。
あそこまでのレベルじゃ無いけれど僕も予知魔法持ちだからさ。それで歩美さんに頼まれていたんだ。澪の予知魔法に打ち勝ってくれって」
「何で歩美さんが」
「歩美さんも予知魔法持ちだからさ。『握りつぶす』特化型だけれど。ついでに言うと澪の飯メイトでもある。予知魔法持ちは珍しいからさ、気になったんだろうな」
なるほどなあと思う。
魔法は一般的な能力じゃない。
だからその分色々心理的に負担になる事も多いのだろう。
前に明里さんが決意という形で、僕にそれとなく教えてくれたように。
「歩美さん自身、最強の予知能力持ちみたいなものだし、マイナス方向専門の予知能力者だしさ。そういう意味で不安もわかるんだろう」
「でもそれなら、歩美さん自身は。不安じゃ無いの」
僕も思った事を未来さんが口にした時。
「それは心配いらないのですよ」
嫌というほど聞き覚えのある声がすぐ近くでした。
反射的にさっと前方向に逃げつつ身構える。
「うーん、最近色々厳しいのです。少しは私をいたわって欲しいのです」
「そんな必要は何処にありますか」
僕はそう言って気づく。
そうか、この人こそ最強かつ最悪で、かつ絶対に潰せない人だ。
会長はもっともらしく頷いて口を開く。
「私と歩美で戦った場合は、ほぼ間違いなく私が勝つのですよ」
「参考までにどうやって勝つんだ?聞いていいか」
楓さんの質問に会長は頷く。
「簡単なのですよ。私と歩美を含む空間を複素数次元化しつつ独立させるのです。歩美だけを閉じ込めると攻撃無効がかかるので、私ごと包み込むのです。あとはひたすら持久戦。結果、消費カロリーも酸素必要量も圧倒的に少ない私が勝つのです」
うわあ。
なかなか酷いぞその戦い。
「でも蓄積した脂肪量でいい勝負になるんじゃ無いのか」
「私は酸素0でも数時間は生命維持が出来るのです。流石に歩美にはそんな持ち魔法は無いのです」
なんだそれ。
化け物か、会長は。
「会長、本当に人間なのか?」
理彩さんすら想定外の模様。
「失礼な。ちゃんと染色体は人間なのです。子供だって一応作れる筈なのです。なんなら試してみるのです」
そう言って姿を消す。
咄嗟に飛び退いたが、今度の目標は栗平だったようだ。
「うーん、このお尻もなかなかなのです」
尻もろとも栗平の下半身をむぎゅっと抱きしめた会長。
そこを楓さんのナイフが襲う……
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