第57話 本日の犠牲者

 おい会長、何という案を。

 でも大丈夫。

 その案には明確な欠点がある。


「残念ながら普通科の寮は異性禁止。なのでお持ち帰りは無理ですよ」

 その前の風呂でサービスという言葉はあえて無視しよう。


 しかし会長はサムズアップまでして反論。

「問題無い。持ち帰るのは正樹では無いからな。女の子が正樹を持ち替えるんだ。特別科の寮は男女別じゃないからな。どうだこの完璧なプラン」


 何だそれは!

 セクハラ通り越して不純異性交遊。

 いや交遊ですら無くて不純異性……ええ何でもいい。いや良くない。


 そして。

「採決を取る。今の案に賛成の人、挙手」


 麻里さん、微妙な笑いを浮かべながら採決取らないでくれ!

 あなたは無口と理性の徒では無かったのか。


 そして遊里さんと波都季さんと沙霧さん、元気よく挙手しないでくれ。

 会長が挙手しているのはもう当然だから無視するとして。


「さあどうだ!この場の下半身、いや過半数で決定だぞ!」

 会長その間違いわざとらしすぎます。


 そして未来さんと美都理さん、手をあげようかどうか迷わないでくれ。

 どっちかがあげたら挙手者は5人。

 過半数に達してしまう。


 そう僕が焦ったところで。

 いつの間にか僕の横に来ていた理彩さんが。

 小さく、呟くような声で。


「フリーズ」

 そう唱えた。


 会長、麻里さん、遊里さん、波都季さん、沙霧さん。

 この5人の動きがぴたりと止まる。


 理彩さんはふっとため息をついて、僕の方を見た。

「逃がしてやる。今のうち。あと今日は夕食パスでいい」


 えっ。

「でも理彩さん、それじゃ理彩さんのせいになりませんか」


「大丈夫です」

 これは舞香さん。


「油断して魔法負けした方が悪いんです。それがここの文化ですから」

 いつも通りの口調でそう解説してくれる。

 怖すぎるぞその文化。


 そして更に理彩さんが。

「急げ。長時間は持たない」

「これは理彩さんの魔法が持たないのではありません。魔法をかけられた会長達の大脳が呼吸出来ずに壊死する可能性があるという事です」


 おいおいおいおいおい。

 舞香さん、冷静な口調で恐ろしすぎる解説をしないでくれ。

 きっと事実なんだろうけれどお。


 でもまあ、そんな訳で。

「わかった。ありがとう。それではこれで失礼します」

 僕はカバン等を持って準備室を逃げ出す。

 後がどうなるか取り敢えず考えないで。


 ◇◇◇


 その日の夜。

 久しぶりに部屋で弁当という夕食を食べている時。

 僕のスマホにSNS経由の無料電話が鳴った。

 相手は春日野だ。


「いや、何かエラい事をしてしまった」


 何だろう。


「開発はどうだった?」


「そっちは順調。面白いところを紹介してくれて有り難いと思っている。

 それはそれとしてだ。

 特別科の寮には大浴場があって、入れると言うから入ってみた。拙者は大きい風呂が好きでな。つい」


 ああ、それは……

 やってしまったか。


「何となく想像つくが、どうなった」


「まさかと思ったが混浴だった。入口は男女別だったから気にしないで入ったら。数分後に女子が何人か入ってきて気づいた。よく見ると女子更衣室かららしい入口もあった。風呂場は同じだったらしい。慌てて出て逃げたが大丈夫だっただろうか」


 ああ、無事に逃がして貰えたようだな。

 初回だから魔女共も遠慮したのだろう。


「なら問題無い。特別科は寮も風呂も男女共用なんだ。現時点では女子しかいないけれどな」


「まさかああなっているとは思わなかった」

 春日野、素直に心配している様子。


 甘いな、奴らは魔女。

 風呂が混浴なのを含めて色々確信犯だ。

 つまり加害者は向こう、君は被害者だ。


「そういう処なんだ。以後気を付ければ問題は無い。少なくとも魔女共は問題にはしない」


 まあその程度で今回は言っておこう。

 そのうち春日野も魔女の本質に気づくだろう。

 僕も理彩さんがいなければ危ういところだったし。


「しかしこんな体験、間違ってもクラスでは言えないな。栗平にうらやましがられてしまう」

 確かに。


「ああ。まあ一応部外秘だからそのつもりで。じゃあ明日、学校でな」

「ああ」


 春日野は早くも魔女の洗礼を受けたらしい。

 そのうち彼も色々と気づくことだろう。

 僕は取り敢えず今日も無事乗り切ったことに安堵しつつ、スマホを机に置いた。

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