第49話 私の魔法はこれで充分

 本日の夕食はキムチ鍋。

 白菜キムチ、豚肉、モヤシ、豆腐、シュウマイ、菜の花。

 全部入れて煮込む。

 味付けそのまま。

 以上!


 意外なことに結構評判はよかった。


「これは始めて。でも野菜も結構食べられる」

「最初の料理当番としては合格じゃない。手抜きだけれど」

 はいはいそうです手抜きです。

 だって調味料をうまく使って味を調えるなんて。

 料理の基本がわからない僕には無理だ。


 途中で野菜が足りなくなり、未来さんが白菜をちぎって入れて。

 最後は色々な出汁が出た赤い汁を御飯にかけて。

 取り敢えず無事完食。


 今日は洗い場番が理彩さんという事で相手は未来さん。

「そう言えばあの魔法杖、どういう事だったの」

 というのでスマホで『波、共振』と検索したページを使って説明。


「つまり決まった長さだと強い力になるわけね」

「そんなところ。勿論魔力と他の波が同じ性質を持つとは限らないけれど」


「まあ、あとは明日、杏さんがどう改良してくるかを見るだけね」

「物質加工の魔法を持っているからなあ。何かとんでもない工作してそうだ」

「確かに」

 なんて言っていると、理彩さんが戻ってくる。


「鍋だと洗い物簡単。油物がないから更に」

 なるほどな。


「ところであの魔法杖、うまく実用化して量産したらどうする」

 未来さんがそんな話をする。


「私はちょっと超低温の世界を実験してみたいな。私の魔法ではまだ絶対温度で4K位までしかいけないんだよね。これを何とか液体ヘリウムでも困難な1K以下まで持っていきたい。それが出来ればまた新たな可能性が出来そうで」

 なかなか凶悪だな。


「絶対温度で4Kまで行ければ充分じゃないのか」

「そこまでは液体ヘリウムを使った方法で実現可能なのよ。ただ液体ヘリウムを使ってかつ減圧しても届かない温度があって、そこから先はミクロな領域以外では実現出来ていない。これを魔法で出来れば色々進歩があるかもしれないじゃない」


 なるほど。

 発想が何かいかにも工業大学付属という感じだ。

 特別科でもやっぱりそういう傾向があるのだろうか。


「僕はまあ、魔法が使えないからなあ」

「でも魔法を増幅出来るなら、いずれは魔力無しでも魔法を使う方法とか出来るかもしれないじゃない。」


「でも0を何倍しても0だしなあ」

「そこは魔力蓄電池とか、魔力電池とか、そういった物を開発すれば」


「その辺は魔力を持った人がもっときっちり考えないと無理だろ。今回はたまたま杏先輩が色々調べていてくれて、その成果をそのまま利用して出来ただけだからさ」

「正樹は夢が足りない」

「夢は実現しにくいから夢なの」

 なんて言葉遊びをした後。


「理彩は魔法を強化する杖を使えたら、どんな事をやってみたい?」


「私はいい」

 理彩さんは首を横に振る。

「私の魔法はこれで充分」


 えっ。

「私の魔法は強くてもいいこと無いから」


 未来さんはあっ、という顔をする。

 その表情の意味は僕には本当はわからない。

 でも何となくだけれど。

 理彩さんは自分の魔法が好きではない。

 それはわかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る