第3章 魔法道具の開発過程

第36話 特別科の最奥地

 月曜日。

 栗平は昨日の出来事を全く覚えていないようだった。

 相変わらず出会いが無いとかそんな話をしている。

 理彩さんの魔法、効果は絶大だ。


 さて。

 放課後。

 いつもの準備室。

 ほぼいつものメンバーが揃っている。

 未来さんと理彩さんが多いだけかな。


 会長は僕にバッチを渡す。

「これをつけておけ。特別科の建物に入れるようになる」


 それって事は。

「何かセキュリティでもかかっているんですか」


「魔法的なセキュリティがな。魔力が無い人間が特別科関連の施設を見ても、何となく入る気にならないというと入りたくない。そんな気分になるような魔法がかかっているんだ。そのバッチをつけておけば取り敢えずその影響からは逃れられる。

 あとは『魔力は無いけれど関係者です』という印にもなるしな。

 今後使うだろうから学校いる間は常につけておけ」


 なるほど。

 制服のポロシャツの襟につけておく。


「それでは行くぞ。未来と理彩もいいんだな」


「勿論」

「ええ」


 という訳で。

 会長、僕、未来さん、理彩さんの4人で普通科の教室棟と逆方向へ。


 以前は大学施設だと思っていた4階建ての建物の中へ入る。

 入った一瞬だけ、耳がツンとするような何かわからない妙な感触があった。


「気づいたか。今のがセキュリティだ。そのバッチをつけていればその程度で済む。だがそのバッチ無しで入ると恐怖で動けなくなる。

 あとはごく短時間の記憶消去の魔法も組んである。何かを追いかけてこの中に入った場合、その追いかけた対象や追いかけた目的を忘れるようにな。そんな訳で心しておけよ」

 との説明を受けて。


 階段を4階までのぼり。

 一番奥の教室へ。

 会長は手前側の入口をノックする。


「私だ。入るぞ」

「どーぞ」


 ほぼ声と同時に会長は扉を開ける。

 最初は他と同じ教室だったのだろう。

 しかし机は完全に配置をかえていて、余った椅子は後に積み上げられている。


 3つの大きな机としてくっつけられた机。

 その上には様々な物が法則無いままに雑然と置かれている。

 4分の3まで暗幕カーテンが引かれてかなり暗い部屋。

 その中に制服ポロシャツ姿の3人の女子がいた。


「ようこそ、特別科の最奥地へ」

 手前側にいた背の高い女子がそう挨拶してくる、

 黒い長髪、日本人と思えない白い肌、

 長い睫毛とほとんど閉じているような細い目。

 顔立ちは綺麗だ


「千歳、お約束はいい」


 会長は彼女にそう言って。

「この手前のが船橋千歳ふなばしちとせ、ここの筆頭だ。

 奥の日陰側にいるのが2年の愛甲紬あいこうつむぎ

 日向側にいるのが同じく2年の石田杏いしだあんず

 いずれも『魔女らしい魔女』たる魔法なり道具なりを研究している」


「そこからは私が説明しよう」

 千歳と呼ばれた女子が口を開く。


「度重なる迫害により魔女の文化や知識、道具類はほとんどが失われた状態にある。例えば魔法杖とか飛行用魔法の箒なんてものすら真に実在したかわからない状態だ。

 魔術そのものもそう。今は単純な身体強化魔法以外の魔法はほとんど、単なるユニークスキルと化している。他の人に教えられないし教わる事も出来ない。

 これらの事態を打破して、古の魔法使いの力に迫る。それがここの目的だよ」

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