第31話 今度は卓球大会です

 そして午前のテニス大会に引き続き。

 午後のハイパー卓球大会がスタートした。


 ただ卓球大会はテニス大会よりレギュレーションが厳しい。

 球そのものに魔法をかけるのは禁じられているのだ。

 風で増速させたり減速させたりするのも当然アウト。


 だからと言って競技が大人しくなる訳ではない。

 体力と知力、そして魔力を加えた高度な戦いが展開される。


「これはエグい、超回転サーブだ。卓球台上でほとんど浮かない」

「美菜美選手。何とラケットを飛ばして間に合わせた。念動力でそのまま打ち返す!」

 なんてテクニック勝負もあれば。


「速すぎる。お互い残像が見える位の早さでラリーが続いています。このラリーの間、果たしてピンポン球の強度は持つのか」

「厳しいかもしれません」

 なんてパワーとスピード勝負な試合もある。


 20畳以上ある広い娯楽室は卓球台1台だけ。

 他は全て廊下側に片付けられている。

 そして端以外にいるのは2人の選手と審判だけ。

 観客も直接見ている人はごくごく隅、壁にくっつくようにしている状態だ。

 大部分の生徒は魔法による画像入り実況中継を脳内受信している。

 というか画像伝送なんてする魔法も存在するのか。

 僕は始めて知った。


 そして。

「さて、いよいよ前回の優勝者、玉川舞香選手の登場だ」

 の声に思わず僕の頭が『?』となる。

 舞香さん、どう見てもスポーツ系に見えないのだけれども。


「さて、メイン解説役が試合に出てしまったので、ここからは私、祖師谷聡美と」

「成城歩美でお送りしますね。さて聡美さん、この試合は……」

 おいおい。

 1人生徒会が解説代役なんてやっている。


 そして舞香さんの卓球。

 他と比べてあまり派手さが無い。


 厳密に位置取りして、素直にラケットを動かし、普通に球を打っている。

 それだけにしか見えない。

 それなのに相手はラリー2回目で必ず姿勢を崩し、次の球でとどめを刺される。

 その繰り返し。


「相変わらず舞香選手の最適化卓球、えぐいですね」


「あれは相手になってみないと怖さがわからないのです」

 そう前置きして歩美さんは続ける。


「1回目は何とか届くところに球が来ます。ぎりぎりですが魔法を使ってうまく返せたなと。そう思うとネット際ですっと返されて、次の球がもっとぎりぎりに来る訳なんですの。2球目はもう魔法を使っても返すのだけで精一杯の状態。しかもこっちが苦労して打った球、予想しているかのように先に舞香選手のラケットが移動しているんです。


 そして3球目のネット間際の強打。2球目で体勢を崩したこっちには返せないコースに来るんです。卓球台のエッジで下方向にバウンドしたり、バウンドした直後にバックスピンでネットに絡まったり」


「海老名美菜美選手の念力で複数ラケットを使うスタイルとか、鶴川波都季選手の時間軸操作で超高速で動く魔法とかはどうでしょうか」


「昨年はどちらも舞香選手に勝てませんでした。今年は期待したいところですね」


 何かもう無茶苦茶だな。

 そう思いつつも面白いので実況を見てしまう。

 結果、第一シードでの舞香さんの戦いはストレート勝ち。

 舞香さんは疲れた様子も見せずに次の選手と交代する。


 ちなみにもう片方の選手は右に左に揺すぶられて体力ボロボロな状態だ。

 息も絶え絶えという感じで隣の和室へと何とか歩いて行き倒れ込んだ。


 えぐいというかなぶり殺しというか。

 何か舞香さんの別の側面を見てしまったような気にすらなる。

 本人は無表情で淡々とやっている感じなのだけれども。

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