第161話 頑張ってたかな?
時間はあっという間に過ぎる。
24時間は少ない。
「やぁ、お帰り。その顔は決まった様だね。」
「はい。決めました。」
「ほう。君を変えたのは…ふふ、野暮だな。では聞こう!兵頭 翔、戻るか戻らないか!」
ここでの出会いはとても大きく成長出来たと思う。そして大切なものになった。
考えて出した答えは…
「俺、戻ります。」
「分かった。では宇佐美 和歌。君はどうする?」
「戻るよ。」
「ふむ。迷いのない。実に芯の強い子だな。」
俺の答えは戻る。
先輩の答えも戻る。
始めから決まっているって言っていたし、戻るつもりだったのか先輩は。もし違ったらどうしようとか少し思ってたからホッとした。
「では、行くとしよう。別れを言い終わったら着いておいで。」
神様はそう言うと階段を降りて行った。
「じゃ、皆またね!」
「またねって…和歌は無茶しすぎないで頑張りなさい。」
「うん。天も頑張って。」
「短い間ですが、楽しかったです。」
「ありがとう奏人さん。2人ともお元気で。」
「翔はちゃんと和歌を見てなさいよ。1人にしたら危なっかしいから。」
「はい。そのつもりです。」
「2人とも私を迷子になる子供みたいに言わなくても。」
坂俣さんと奏人さんと挨拶を交わす。短い間だったけど、楽しく過ごせていたと思う。
また次会えるみたいな感覚で別れを告げた。
「きりんちゃん。また…ね。」
「はい、和歌。」
「きりんさん。また会いましょう。」
「はい、約束ですよ?」
「はい。」
さよならは言わない。きっと会えるとどこか思えるからだ。先輩もそうなのか分からないけど、俺と先輩は神様の降りた階段に向かった。
「おや、早かったね。」
「はい。決めた事ですし。」
「そう…か。俺からは何も言えんが、向こうの神様にはよろしく言っとくよ。」
「そんな軽い感じで…。」
「ははは。神様の付き合いなんて、そんなもんだよ。じゃ行こうか。」
暗い地下に降りたが周りには何も無い。
―ガチャ
音がした気がして前を見ると扉が開いた。
「あ、そうそう。向こうの君たちがどう言う状態かは知らないから。何があっても頑張ってね。」
「神くん、それを今ここで言う〜?」
「大丈夫。生きてはいるから。」
「そう。まぁ生きてればいっか。」
「ふは。やっぱり君は面白いね………強く…生き………」
目の前が白くなった。
右手から熱を感じる。
先輩が手を繋いできた。
どんな表情をしてるのか見えないな。
泣いているかな?それとも照れているだろうか?笑ってくれて…いる…い……な……
………。
……。
…。
か…くん。
かけ……ん!
なんだか声がする。俺を呼んでる子の声は…。
「わ、か…せ…い。」
「うん。おはよう、翔くん。」
俺は病院のベッドにいた。なんか色々繋がれてるな、これ喋りにくい。取ろうとしたら先輩に怒られた、お医者さんに聞かないとダメだと。
神様は最後に生きているとは言っていた。どうなっているか分からないって言うのは、きっとどうにかなってるだろうと思ったけど。
そもそもどうしてこうなってるんだっけか?
車にぶつかったんだったか?ん〜…まぁいいや、今の状況聞けば。
「呼吸も安定しているし、脈も正常ですね。もう大丈夫でしょう。」
「あぁ、ありがとうございました。」
「いえいえ、頑張ったのは息子さんですよ。それでは細かい説明は…後で聞きに来てください。」
医者がいなくなり病室には母さんと俺だけ。
「…母さん。」
「ん?どうしたの?」
どうしようとか、何を始めに話すのか考えてなかった。先輩と違う世界を旅して来た事…これは夢の話にされそうだし、始めでは無いだろう。
そう言えば、先輩どうなったのかな?目が覚めた時は居た気がするんだけど。
違う病室なのかな?気になるな…。それより心配させた事を謝るべきかな?なんか気持ち痩せた気がするな。
ん〜…生きてました!…違うな、ごめん、心配させた……してたかな?
「ふふ。いつも通りで何よりよ。考えてないで言葉にしなさい、別に今は言う順番とか気にしなくていいから。」
「え?あ〜うん。」
「あ、1番気になる和歌ちゃんは隣の部屋で家族と話しているよ。」
「べ、別に1番じゃ…ないよ。」
「そう?どうせ私に悪いから心配させたとか、言おうとしたんでしょう?でも先に思い浮かんだのは彼女でしょ?あ、まだ彼女じゃ無いか。」
「か、母さん。」
「赤くなるって事は健康って事ね。私はあんたが今元気ならそれでいいわ。」
「…うん。ありがとう母さん…それとただいま。」
「うっ……おかえり……おかえり、がげるぅぅ!!」
「っぐ。母さん…よしよし。」
気持ちお腹が痛いが我慢だ男の子。気を張っていたのか、母さんが泣き崩れて抱きついてきた。こんな時はそっと頭を撫でてあげる。
しばらくして落ち着いてきた母さん。気恥ずかしそうに沈黙の病室。
―コンコン
「今宜しいでしょうか?」
「あら、宇佐美さんのお母さん。どうぞどうぞ。」
「失礼致します。翔さんお加減は如何でしょうか?」
「あ、はい。なんとか。」
「それは良かったです。娘から話は聞きました。この度は娘を助けていただきありがとうございました。」
先輩を助けた?車に轢かれそうなのを助けたような気がするんだけど…いまいち覚えていない。
「あ〜………おれ、いや。僕より和歌せん…和歌さんは大丈夫でしたか?」
「ええ、お陰様で。…やっぱり和歌の言う通り、自分より相手の事を先に気にされるのですね。」
「え?」
「いえ、こちら事です。和歌なら一緒に連れてきたのですが。」
扉の方を見ると先輩がこちらの方を顔半分だけ出して覗き見していた。またなんであーしているのか、会うと気にするようなことが…。
「まさか顔に火傷でも!っぐ!」
「あーいきなり立とうとしないの。折れてるんだから。」
「え?そうなの?だから動かないのか。」
「…もう、本当に自分の事は二の次なんだから。」
「顔は火傷なさそうで…和歌先輩、髪どうしたんですか?」
目の前にいた先輩は綺麗な顔で微笑んでくれた。
その後すぐにあったはずの物が無い、黒髪の綺麗な髪がショートカットになっていた。
「あ〜、うーん…入院中に邪魔だから切った。」
「そんなあんな綺麗な髪をそう簡単に…。」
「翔くんは長いほうがいい?」
「どっちの和歌先輩も好きですよ。」
「………そ、そう。」
「あ……はい。」
つい言ってしまった。それを聞いた先輩も顔を真っ赤にして黙ってしまった。
「若さとは羨ましい物ですね。私供など目にも入らないようです。」
「私達も若い頃はこーだったかな?お邪魔そうだし、何か買い出しでも行きません?」
「そうですね。」
「あ、和歌ちゃん。翔を任せて平気かな?」
「あ、はい。お任せください、お母様。」
「お母様だって〜くすぐったい。そのうち呼ばれるようになるから、今のうちに慣れておかないとかな?」
「あら、そうなると私もかしら。うちには男の子いないから、今から楽しみだわ。」
「ママ!」
「母さん!」
「「ふふふ。ではごゆっくり〜」」
まったく母さんは…母さん達は強いな。
「まったくママったら…でも生きていてくれて良かった。」
「ええ。それで、その…さっきのは勢いって言うのもありますが……和歌せん、和歌さんが好きなのは本当ですから。」
「う、うん…………私も。」
ニヤニヤしてる母さん達が見えるが、見なかった事にしよう。
ん?口に手を当てて何してるんだ…。和歌先輩に見えないように手で追い払う。全くうちの母さんは何をしてるのやら。
和歌さんの口って柔らかいのだろうか……
「ん?何かついてる?」
「あ、いやいや!なんでもないっす。」
「また何か良からぬ…事ではなさそうだな。なんだろ??」
「いや本当になんでも無いので!ただ髪の短い和歌先輩に見惚れていただけなので、あ。」
「も、もう!翔くんたら!」
「ははは。」
俺達は戻ってきた。
いつもの世界に。
魔力が使えないか試してみたがここでは何も起きなかった。
あの世界で出来ただからなんだろうと、俺も先輩も納得して元の生活に戻る。
あのままここで生活していたら俺は頑張ってたかな?
そんな事を考えつつ俺は病室の窓の景色を眺める。
手に伝わる先輩の温もりを感じながら…。
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