第44話 何か忘れているような。

「み、皆さん。お、お疲れ様でした。」

「いつものきりんちゃんだ。」

「和歌先輩にはこっちがいつものなんですね。」

「そだね。いつものきりんちゃんは和みキャラだよ。」

「な、和みですか?」

「ふふ。確かにこのきりんは和むわね。」


俺達は戦いを終えて、学園に戻ってきた。

さっきまでの戦闘の時と違って、たどたどしい言葉で労う網野さん。

先輩が言うに、いつもの網野さんは和みキャラって事みたい。

ルカさんもそれには同じ意見みたいだ。


「きりんさん。一度部屋に戻ってもいいか?」

「リコもー。汗でベトベトだよー。」

「で、では1時間後。しょ、食堂に。」

「んじゃ、またな!」

「またねー。」


ブォォン…

ローランドさんとリコさんが魔法陣に消えていく。


「…。」

「あ、ヘレン置いてかないでよ。」


ブォォン…

続いてヘレンさんとルカさんが魔法陣に消えて行った。

何か忘れているような。

…なんだったか。


「翔くーん。私達も戻るよ。」

「…部屋だ!網野さん!」

「きりんちゃん?もういないよ。ほら行くよー。」

「わ、和歌先輩。引っ張らなくても…」


ブォォン…。

俺と先輩は部屋の前に戻ってきた。

あの魔法陣やっぱり便利だな。

異世界って画期的だ。


「翔くん。先シャワーしてきていいかな?」

「へ?あ、はい。ど、どうぞ。」

「ありがと。お先にー。」

「…。」


きゅっきゅっ。ザー。

…なんでこうなった。

いや、それは分かっていた事だ。


「んー♪」


先輩の鼻歌が聞こえる。

扉の向こうでは先輩は…。

て!俺は何を考えてるんだ!落ち着け俺!

…喉が渇いた水を飲もう。ゴクゴク。ふぅ。


む。トイレに行きたくなってきた。トイレは…まさかのユニバス!

なんがか、この下り前にもあったような。


ガラ


「ふぁーさっぱり!翔くんもシャワーしてきたら?」

「な!?」


デジャブ!?!?

長い黒髪が濡れていて、月明かりで少しキラキラしている。

引き締まった手脚に目を奪われてる俺に、首をかしげる先輩。

しかも、またもバスタオル!!!


「1時間後に食堂いくんだから、ちゃっちゃと入ってきなよー」

「は、はい!」


俺は逃げるようにシャワーに向かう。

頭からシャワーをかぶり頭を冷やす…冷たい。

しかし、一度ならず…先輩は俺を何だと思ってるんだろう。


「おとう…声に出したくないな。はぁ。」

「翔くん。着替え置いとくよー」

「はひ!ありがとうござます。」


俺は先輩の用意してくれた服に着替えてシャワー室を出る。


「翔くん、おかえりー。」

「……。」


バスタオルでもない、制服でも、運動着でもない。

白のワンピースを着ている先輩がそこにいた。


「ん?どうかした?」

「…かわいい。」

「はにゃ!?」

「は!つい!いや、あの。」

「こ、これは。あ、あったから!私服ぽいの着ただけだから!」

「そ、そうですか!」

「そうだよ!」

「「……。」」


そのまま俺達は暫く目を逸らして無言だった。


「そ、そろそろ。食堂行きましょうか。」

「そ、そうね。」


つい本音が出てしまった。

ある意味バスタオルと同じくらい強烈だった。

いやいや。バスタオルは忘れねば!


俺達は集合場所の食堂に向けて、魔法陣で移動した。


「まったく、翔くんは…。」


移動する瞬間何か聞こえたような気がした。

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