第65話 小高い丘の小さなお店
老犬とよく行く小高い丘。
そこに小さな手作りケーキの店が出来た。
たまには私も他の人がドリップしたコーヒーも飲みたいもので、私はコーヒーの香りに誘われ、老犬はケーキの香りに誘われて仲良く足は店の方へ…
さすがに犬の入店は許されないので、外で待たせることになってしまったが、老犬はそれでもご機嫌な様子でシッポを振って中に入る私を見送っている。
ひょっとしたら、何かお土産の期待をしているのかぁ…
店は丸木造り。
店内はこじんまりとしていて、スイーツの甘い香りとコーヒーの香ばしい香りが漂っている。
早速、好きなケーキを選んで、コーヒーを楽しむ。
今日は日曜日なので子連れのお客も多い。
自分の店では無いので、子供のはしゃぐ声も今日は心地よく聞こえる。
甘さを控えたショートケーキと少し苦みのあるコーヒー…
なかなか美味しい…
ここはスイーツがメインの店なので、コーヒーはひょっとしたらコーヒーメーカーのものかと思いきや、きっちり豆からミルしてドリップしたものであった。
これは強力なライバル店になるのではと、改めて店内を見渡す。
が、ホッとした。
店内は子供連れの若い夫婦やママ友風の人が多い。
私の店で見るような、時間潰しのサラリーマンやコーヒーにうるさそうなこだわり派のお客、はたまた、家や店に居場所が無く、救いを求めてやって来る様な客はまず居ない。
この店とはうまく棲み分けが出来ている様だ。
私は安心して、ゆっくりとコーヒーを味わう。
ふと窓の外を見ると、雪が…
このところすっかり寒い日が続いていて…
今年の冬はいつもの年より少し寒くなるようだ…
老犬へのお土産として、事情を話して選んでもらった甘さ控えめのビスケットを手に店を出る。
空からは傘をさすほどでもないフワフワした雪が舞い降りてくる。
老犬もご機嫌で家路への足も軽やかに…
店を出て、少し歩くと街が一望できる場所に出る。
思わず立ち止まる私。
見下ろした街は、降り始めた雪の中に包まれて、いつもの景色とは違った凄く幻想的な街に…
“ク~ン”
と、帰宅を促す老犬
私は、何だかちょっとだけ、ほっこりと温かい気持ちになってしまって…
それがコーヒーのせいなのか雪のせいなのかは分からないが…
老犬と一緒になって丘を小走りで、幻想的な街の中へ駆け下りていった…
静かに降る雪が、
”もう直ぐクリスマスだよ”
と、語りかけているようであった。
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