第41話 春だがら…
少しずつ暖かくなってきた春の風が黄色い花を揺らしている。
今日は老犬とふたり。
ぶらぶら散歩。
遠くの空き地で草野球の子供たちの歓声が聞こえる。
ぶらぶら散歩の老犬と私、ついつい子供たちの元気な声に誘われて…
空き地では、コーチらしき人が子供たちにノックをしている。
私と老犬は、邪魔にならないように、フェンスの端っこにあった古びた折りたたみのパイプ椅子に座って、子供たちを眺めることに…
懸命に無心で白球を追い求める少年たち。
なんだか懐かしいような、羨ましいような…
私も無心で何かを追い続け、走り続けていた時があったはずなんだけども…
私にとっての白球は、誰かが、カキーンとどこかへ打ち放ってしまったようだ。
二度と追えない青空の彼方へ…
そして…
何かを…いや…全てを忘れるためにただただ漂い…辿り着いたのがこの街だった。
この街に来て数年が経つ。
何となくこの街にも慣れ…
今は、何の気負いもなくなり…
この街の風景に溶け込んでいる自分が嫌いでもない。
希望というものを失っていた私に、人生には、ささやかではあるが、鮮やかな色彩があることを教えてくれたこの街…
春を待ちわびたかのように、大きな声を出して走り回っている子供たち。
コーチに一喝されながらもボールを追いかける少年たち。
私には何とも微笑ましく…しばらくの間、少年たちの姿を眺めていた。
ひとしきりノックが終わったところで、私達も帰ることに。
私は、ゆっくり立ち上がり、大きく背伸びをする。
老犬も閉じていた目を開けゆっくりと背伸びする。
野球少年たちの声を背に、私は、私の日常へ戻ってゆく…
フェンスの脇で小さな小さな紫色の花が、春の風に揺れていた…
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