第24話 ミス・モーニングのご帰還

 少しずつ秋風が吹き始め、朝夕だけは少し涼しげになってきた。

 そんな今朝のこと。

 ”カラカラン”と、店の扉が開く。

 私がサッと顔を上げると、懐かしき顔。

 やっぱり、ミス・モーニングであった。


 ミス・モーニングとは、私が勝手にこの女性に付けた愛称である。

 そのいきさつは、いずれまた語るとして。


 ミス・モーニングの扉の開け方が独特なのか、不思議と扉の鈴の鳴り方が違うのである。

 なので、その独特の音には、私の方がカウンターの奥にいる老犬よりも早く反応してしまう。


 ほぼ半年ぶりである。

「お久しぶりです」の挨拶に、私はただ、笑顔を作り、頷くのがやっとだった。


 雑貨なんかを扱う仕事をしているミス・モーニングは、ある陶芸家と雑貨の特集を組むために、交渉や取材等でここ半年あまり、出張していたらしい。


「それにしても長かったですね」

「それがね、出張費削減のためなのよ」

「出張費削減?」

 よくよく話を聞いてみると、その陶芸家の窯元がミス・モーニングの実家の近くだったようで、

「そうだったんですか」

「最初、ひと月位って言ってたのにさ」

 私は、困りながらも楽しげに話す言葉のリズムを心地よく感じながらコーヒーをそっと差し出す。


 ミス・モーニングはひと口飲むと、

「あ~、やっぱり、ここ、落ち着くなあ~」

 と、私にとっては、最高の褒め言葉。


 それから、時間をかけてゆっくりと私のコーヒーを味わってくれながら、以外に偏屈だった陶芸家の話や陶芸の話、そして、帰って来たら部屋が大変なことになっていたこと、冷蔵庫で発見された真っ黒になってしまっていたバナナの話などを聞かせてくれた。


 最後のひと口飲み乾すと、スッとカウンターから降りると、

「それじゃ、行ってきます」

「ハイ、気を付けて」


 ミス・モーニングを見送り、見上げた秋の朝の空。

 高く澄んだ青い空にうろこ雲。

 爽やかな風が心地よい朝だった。


 どこからか、キンモクセイの香りが漂ってきた。





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