第12話 楽器店の前で

 梅雨も今日は中休み。


 老犬と一緒にメニューの買い出しに行くことにした。

 昔は、買い物は紙袋などにいれてくれて、それを抱えていた。

 あの頃のそんな姿は少しは絵になってたんじゃないかなぁと、今は思う。

 なので、ビニール袋は少し様にならない。

 なんだか、罰ゲームで買い物をさせられているような気になる。


 私は彼女との約束(レコードのプレイヤーを直しておく)が気になっていたので、商店街の電気屋さんへ。

 ふと、通りの先の楽器店に目をやると、彼女がいた。

 彼女は、飾ってある楽器を睨め付けるのよにジッと見ていた。

 私は思わず立ち止まりそんな彼女を見ていた。

 彼女が私に気づいた。

 私は彼女に声を掛けようとしたが、彼女は、びっくりした様子。

 ”見られたくないところを見られてしまった”

 そんな様子で、下を向いて、私と目を合わそうともしない。


 結局、私は声もかけず、軽く会釈して彼女の横を通り過ぎた。

 “何だったんだろう?”

 気になったので、振り返ってみたが、もう彼女の姿は無かった。


 老犬も、顔を見上げてクーンと鳴いた。

 この梅雨空のような、なんだかモヤモヤしたものが私の心に残った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る