第9話 朝の風と共に


 店の前の歩道には、花壇があり、今はツツジが元気に咲いている。

 五月晴れの清々しい朝である。


 少し早起きした私は、老犬と共に店先の掃いていた。

 老犬はもう少し寝ていたかったようで、手伝う風でもなく、つまらなそうに伏せていた。

 日中は太陽の陽射しがとても厳しく暑いのだが、朝はまだ少しひんやりとしている。


 さっきまで、つまらなそうに伏せていた老犬が、むくっと起き上がると、通りの向こうへ、ひと声吠えた。

 見ると、中学生の制服姿の彼女が自転車で走っていた。

 彼女もこちらに気付き、私に軽く会釈した。

 老犬がまたひと声吠えると、今度は老犬に挨拶するように自転車のベルをチリリンと鳴らして、走り去って行った。

 老犬は彼女のその挨拶が余程気に入ったのか、立ち上がって、機嫌良さそうに尻尾を振っていた。


 ”そうか、中学生なんだ"


 私は、少し彼女の秘密を解き明かした様な気になったが、しかしまだ、彼女が何処の誰なのか、まだ分からずにいる。


 スーッと、春の香りを乗せて風が通りを渡って行った。

 ツツジも木々も緩やかに揺れていた。

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