5-18 色々つくります
肉に塩、ハーブ類と、材料も揃ったので、早速ベーコンやハムづくりを始める。
まずは、解体した肉をさらに手ごろなサイズのブロック肉に切り分けて、塩をもみ込んでハーブ類と一緒に壺の中で一週間ほど寝かせる。
このとき、気温が高いと腐ったりカビたりすることがあるので注意が必要なのだと言う。
ご家庭で作る場合は、ラップに包んで冷蔵庫の中で熟成させると良いだろう。
一日に一度はかき混ぜてやると良い。ただし、雑菌が入らないように注意する必要がある。
熟成が終わったら、十分な量の水で肉を洗い、塩抜きをする。塩抜きが不十分だと、出来上がったベーコンやハムの塩気が強すぎて食べることができないものになってしまうらしい。
とにかく、大きめの桶やボウルなどに水を張って、何度も交換しながら半日ほどかけて塩抜きをする。
幸一たちは井戸水など使わない。優喜曰く、水魔法で精製した水は無菌のほぼ完全な純水のため、洗浄や塩抜きには向いているのだと言う。
魔法を使えない日本のご家庭では、普通に水道水を使ったので構わないだろう。
塩素が気になると言う人がいるが、塩素は防腐上、重要である。
ミネラルウォーターや、一度煮沸した水道水やを使った場合は、腐りやすいので注意が必要だ。
塩抜きが終わったら水気を切って半日ほど干す。
のだが、こいつらは手抜きで水属性の脱水魔法を使いやがった。
なんと、驚きの十数秒で終わりだ。どこのテレビクッキングだよ。
「はい、半日ほど陰干しで乾燥させましょう。ここに、そしてこれが干し終わった物。半日干したらこのようになります。」
まさにそんなスピードで乾燥作業を終了しやがった。
そして、じっくりと時間を掛けて燻す。
燻製用の箱のは三室構造だ。
中央の燃焼室には燻煙を発するウッドチップと加熱用の薪を兼ねた木の枝を入れ、その左右に肉を吊るす部屋がある。
左右の燻室内に肉を吊り下げて、薪に着火。扉を閉めて十二時間燻す。
そして、薪を入れ替えて、さらに十五時間。
今回はほぼ丸一日、二十七時間燻してみることにした。
やはり、短すぎるよりは、ちょっと長めくらいの方が良い、という結論である。
ただし、全ての肉を一気に全部燻製することはできないので、約三十キロずつ五回に分けて燻す。
そのため、それぞれ熟成期間が異なっている。
燻煙用の木材は、適当に森で伐ってきた木を色々燃やしてみて良い香りがするものを選んだ。
ところで、三百キロの肉を全部燻製にするわけではない。
塩漬けのまま壺に入れておくのが五十キロ、干肉にするのが百キロ、そして燻製するのが百五十キロだ。
ただの塩漬けが少ないのは、保存可能期間が干し肉や燻製肉とくらべて短いからだ。
尚、燻製器は幸一が一時間も掛からずに作った。
鉄板に網、そして針金数本だけの簡単なものだが、保存食としてベーコンやハムを作る分にはこれで問題ない。
グルメ向けの燻製ではなく、純然たる実用品なのだ。無骨なくらいで丁度いい。
さらに、ようやく冬用の衣類も出来上がってくる。一ヶ月以上も前に注文したものが仕上がってきた。
服飾屋もこの時期が一番の書き入れ時だ。貴族や金持ちたちもこぞって冬の服や外套を仕立てている。
さらに、古着屋でも色々買い込んで、衣服に関しても準備万端だ。
毛布なども揃い、ようやく冬の準備の目途が付いてきたようだ。
あとは、燃料系と、家屋の整備修繕だ。
幾ら全員が火魔法を使えるとは言え、暖房用や明かり用の燃料は不可欠だ。
用意する薪は、一口に言うと大量にである。一日の使用量が一抱え。それを百四十日分。
薪割りをして、灯油(ともしびあぶら)を用意して、
そして、そんな間に大型トラックが一台出来上がっていた。
「誰がトラックを作れと言いました? 除雪機はどうしたのですか。除雪機は!」
皇帝はご立腹だ。
「いや、前に結果的に出来なかったでも構わないって……」
視線を逸らしながらボソボソと言い訳がましいことを口にする。
「何を甘えたことを言っているのですか! できなくてもやるんです!」
優喜は幸一の泣き言を許さない。
「そんなことだと、めぐみや楓の心は掴めないよ?」
そして、ニヤニヤいやらしい笑みを浮かべながら茜が詰る。
「な! な、なんでそこであいつらが出てくるんだよ?」
動揺を隠せない幸一はまだまだ甘い。
「まあ、冗談はおいといて、除雪機はどうなのですか? 作れそうですか? そろそろ雪が降り始めそうな感じですが。」
「ブルドーザーなら何とかなると思うんですけど。」
「逃げないでください。あの、雪をドバーッて飛ばすやつが欲しいんですよ。ドバーッて飛ばすやつが!」
「だから、それは無理だって言ってるじゃないですか!」
「諦めたらそこで|人生(試合)終了ですよ」
理恵が目を剥き恐ろしいことを言う。
「全力でやって出来なかったならともかく、初めから諦めているようじゃあねえ。めぐみちゃんに言ってやろう。」
「だだだだだから何でそこでアイツが……」
狼狽えまくる幸一。
「とにかくですよ。ちゃんと真面目に取り組んでもらわねば困ります。そうですね。十三月十四日までに何をやったのかの報告書を出してください。」
だが、優喜はあくまでも冷たい。
「あ、それと、紙作ってもらえる? 百キロから二百キロくらい。」
唐突に理恵が話題を変えた。
「随分幅あるんですけどそれ。百キロで良いんですか?」
「まあ、多い方が良いけど、除雪機の方が優先だからね。紙はちゃちゃっと作れるだけで。」
「いや、百キロと二百キロで手間はあまり変わんないんだけど?」
「え? そうなの?」
「結局のところ、材料の木を運ぶ手間の問題なんだよね。」
「では、三百キロほど作っておけば良いでしょう。売る分と自分たちで使う分のもまとめて作っておいてください。」
面倒なので、製造量は優喜が決めてしまう。
「承知しました。」
幸一と美紀が工場に戻ると、取り敢えず紙の製造に取り掛かる。
製紙は大きく三工程に分かれている。
第一の工程では、木材を粉砕しチップを作る。
最初に丸太を適当なサイズに切るのは手動だ。薪サイズに切った木材を破砕装置にどんどん放り込んでいくと、後は機械が勝手に処理をする。
木材を砕き、細かくなったものから蒸したり煮たり潰したりという処理に入っていく。
処理が終わってボロボロになった小片は、次工程用の容器にドンドンと入れられていくので、ある程度の量の処理が終わったら第二工程を始動させる。
また、第一工程では木の脂肪分も抽出され、それは別の容器に貯まっていく。
第二工程では、粉砕処理した木材チップをさらに魔力を掛けつつアルカリで煮て、潰して、漂白してパルプにする。
そして、第三工程でパルプを漉いて、プレスして水を抜いて、さらに魔法ドライヤーで乾燥させる。
ちょくちょくと、工程にに魔法が使われているのがミソだ。
そして最後に、ロール紙として巻き取って完成だ。
ただし、この一覧の装置のいずれでも、材料の処理が全て終了し、機械装置の中身が空になっても機械が自動的に止まることは無いし、ベルなどを鳴らせて知らせる仕組みも無い。
そろそろかな? というタイミングで見に行く必要がある。
三つの工程で機械として分離されているのは、それぞれの工程の所要時間が違うからだ。
第二工程が最も長く、第三工程が最も短い。そして、全行程を通過薄るのに二十時間以上が必要となる。
そのため、製紙の作業は二日に分けて行うことになる。
一日目は第一工程のみを行って、第二工程と第三工程は翌日だ。
出来上がった紙を持って行ったらまた怒られた。
「除雪車を頑張れと何度言えば分かるのですか!」
優喜は激おこだった。
「いや、だって、紙作れって、作れって……」
幸一はまた言い訳を繰り返す……
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