5-17 久しぶりの狩り
除雪機製作の試行錯誤は、元鉄工所メンバーに任せ、採集班その他六人は冬支度の準備である。
麦や芋、野菜を大量に買い、トラックで運ぶ。
十一人の五ヶ月の食料は、全部で二トンほどになる。
五百キロ程度で「いっぱいある!」と満足していたのだが、よくよく計算してみたら、それではまるっきり足りない。
麦だけでも七百キロ近く、俵で十五個が必要なのだ。そして、イモも七百キロ、肉と根菜類もそれぞれ三百キロだ。
食料問屋や農村に買い付けに行き、軽トラックに数百キロを積んでくる。
軽トラックの法定積載量は三百五十キログラムだが、実際にはその倍は積んで走ることができる。
ただし、安全に、ではない。日本国内で過積載は許容されません。
トラックは二人乗りなのに六人もいるのは、魔力供給源としての要員が必要だからだ。
実際には六人も居なくても何とかなるのだが、荷物を満載して動けなくなると困ると言うことでの人数である。
家の物置部屋には麦俵が十五個、イモの入った木箱も十五個。根菜類の入った木箱は十。
だが、塩漬けの肉が壺に四つしかない。壺一つで三十キロ程度なのであと六個分ほどは欲しいところである。
「お肉ってもう売ってないのかな。」
肉は真っ先に売れてしまうらしく、市を見回しても少量ならあっても二百キロをまとめて買えるような店はもうなさそうだ。
手近な肉屋に聞いてみるが、もう売り切れで終わりらしい。
「ヤバいって。どうしよう、お肉が全然ないよ!」
中島翔子が慌てた声を上げる。
「ハンター組合行くよ。狩りに行くよ!」
宮川晶が突如宣言した。
「狩り?」
「そう。軽トラックあれば持ち帰りは楽でしょ?」」
「自分たちで食べるなら、ハンター登録しなくても良くない? ハンター以外は狩りしちゃダメってことも無いでしょう?」
「そうじゃなくって、狩り場分かんないから。」
「ああ、そっか。ガイドを雇うのか」
青木美穂は感心したように言う。
「いぇーす。分からなかったらお金を払ってでも分かる人に聞く。点滴穿石の基本よ。」
そういえば、『点滴穿石』最初の仕事の時もガイドを雇っていたな。
荷物を全て家に置くと、晶たちはハンター組合に向かった。
「すみませーん、ちょっとガイドをお願いしたいんですけど。」
「ちょっとアンタ! 仕事はこっち通してくれなきゃ困るよ!」
晶の暴挙に受付のオバちゃんが声を荒らげる。
「あ、いや、請けてくれる人いるかなって。」
晶は悪びれた様子も無くあっけらかんという。
「で、何のガイドだい?」
仕事を探していた風の男が訊いてきた。
「あ、冬籠りのお肉欲しいんだけど、この辺りのウサギとかシカの良い狩り場知らなくて、誰かにガイドしてもらえたら良いなって。」
「そういうときは、狩りの依頼をして欲しいんだけどねえ。」
受付のオバちゃんは大層不機嫌である。
「狩り自体は自分たちでできますから。一応、私たち、ウールノリアで六級のハンターやってたんですよ。」
「ウールノリアで? もうハンターはやらないのか?」
「今は別の仕事してますからね。」
「それでですね。ガイドと獲物を運ぶ手伝いを、そうですね。銀貨二十八枚くらいでどうですか?」
「やる!」
晶は依頼の話を進めると、ハンターの男は即答した。
「だから、こっちを通してくれって言ってるだろう! よく私の目の前で堂々とそんなことができるもんだね。」
だがそこに、受付のオバちゃんが割り込んでくる。
「鬱陶しいなあ。私たちとしては、ハンター組合にお金を払う理由なんてないんですけど。で、組合に銀貨二十八枚で依頼を出したら、この人には幾らが支払われるんですか?」
「銀貨二十八枚の依頼なら、九枚半だね。」
率が決まっているのだろう。オバちゃんは即答した。
「安!」
「ボッタクリじゃん!」
「何でそんなに減っちゃうの?」
晶たちは口々に非難の声を上げる。
「普通、こんなもんだろう!」
腹立たしげに言うオバちゃん。
「そんなこと無いですよ。ウールノリアのハンター組合だったら、二十三枚がハンターの方に支払われます。組合の取り分は十四分の二ですから。」
「そんなに少なかったら私たちが食っていけないじゃないか!」
「だったらい、あちこち回って仕事イッパイ取ってこれば良いじゃないですか。」
「で、どうします? ハンターの方に二十三枚渡すなら、そちらに出しても良いですけど。」
「そんなこと、できるわけないじゃないか!」
「じゃあ、ゼロなんですね。」
晶は笑顔で冷たく言い放つ。
翌日。
朝から狩りである。
第六級パーティ『水牙』の案内で、東門から出て南東方面へ向かう。
徒歩なら半日ほどかかるような距離でも、軽トラックで行けば一時間も掛からない。
山の裾野に広がる森の手前、伸び放題に伸びる草むらは既に半分枯れかけている。
「この辺りはウサギの巣が多いがどうする? シカが欲しいなら、もうちょっと行くが。」
「とりあえず、シカの方に行ってみよう!」
そう言って柚希はアクセルを踏み込む。
川の手前で軽トラックを停めて、一行は森へと入っていく。川幅は十メートル程度なので、彼女たちでも橋を架けることはできるが、魔力の消費は控えたいということで、川の手前で獲物を探してみることにしたのだ。
森の中を歩くこと約一時間。
美穂のリュックはテュクリの根でイッパイになっていた。
「この辺、結構いっぱいあるんだね。」
「もう採らなくていいよ。肉持って帰られなくなっちゃう。」
「そうだね。」
「いたぞ。」
左前方を指差し、声を殺しながらウルガストが言う。
「いっくぞー!」
叫んで美穂が木々の間を風のように駆け抜けていく。
風魔法と身体強化の魔術の併用という芸当なのだが、『水牙』は驚愕の表情でそれを見ていた。
シカの奥に回り込んだ美穂は水魔法を放って、シカを森の外へと向かうように追い立てる。
晶たちもシカをやり過ごした後に、追いかけていく。
「何故仕留めない?」
ビャクセフは非難するように言う。
「え? 森の中で仕留めたら運ぶの大変でしょう?」
晶は当たり前のように言う。
皆で追いかけて、シカを仕留めたのは約二分後だった。
「結構大きいね。」
「エゾシカよりでかくない?」
「いや、エゾシカもかなりでかいよ。」
仕留めたシカっぽい生き物は体重約百三十キロ。たしかにエゾシカの雄サイズである。
頭は要らないのでその場で切り落とし、四肢を鉄パイプに括りつけて、六人で担いで運ぶ。
この一頭から採れる肉は六十キロ程度だろうか。
頭部、血、内臓、脂肪、骨、皮と肉以外の部分はかなりの量になる。重量としては肉は多くて半分程度である。
これは牛や豚でも似たようなものだ。
軽トラックに首なしのシカと薬材を積み込むと、十キロほど帝都側に戻ってから、再び森へと入っていく。
シカなんて生き物は、そうそう密集して生息している物ではない。群れを作るにせよ、単独で行動していた個体のすぐ近くにいるとは考えづらいものである。
一時間半ほど森の中を歩き回り、八頭のシカの群を発見した。
「ちょっと、多いよ?」
晶は困り顔で言う。
「あんなに運べないって。」
「まとめて森の外まで追い出せないかな。」
「いやいや、全部狩るのは不味いって。資源保護だよ。ニュースでもよくやってるじゃん。」
大人な意見を言うのは吉田セシリアだ。
「じゃあ、二頭いきますか。」
「らじゃー!」
そして、無事に二匹を仕留めた一行は、シカを担いで森の中を歩く。
森の端まで、歩くこと約一時間。
「やっと出たー。」
柚希が歓喜の声を上げる。
「トラックは何所じゃあああ。」
それに対し、林颯太の声は暗い。
「見えないねえ。たぶん、南の方だよね? 行ってみようか。」
「うひいい。」
颯太は情けない声を上げるが、森の外に出てしまえば地均し移動が使える。
『水牙』が何か変な悲鳴を上げているが、それは気にしない方向だ。
トラックに合流して昼食を摂ると、午後からはウサギ狩りだ。
シカ肉が百六十キロ程度の見込みなので、残りは百キロほどだ。ウサギ一匹で十五キロから二十キロほどの肉が採れるので、余裕を持って七匹ほど狩れば良い計算だ。
「よし、そろそろウサギの狩り場だ。」
ビャクセフが言うのを無視してトラックの上からビームを乱射しながら走り、あっと言う間にノルマを達成した。
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