4-08 帝都に向けて出発

 無事にバスも完成し、めぐみたちは夜明け前から出発準備でバタバタしていた。


 各人の私物に武器防具の類に錬金用の道具に材料、A0サイズに裁断済みの紙、印刷が終わった教科書、そして新しく作られた通信機は昨日のうちにトラックに積み込まれている。

 兎毛布団に毛布やシーツ、そして道中で食べるの食料を積み込んだら、ゲレム帝国に向かって出発である。荷車はティエユの町に置いて行く。

 ティエユの町から帝都ゲレミクまでの距離は一千四百キロ以上ある。平均時速四十キロで走っても、三十五時間はかかる計算だ。日中ぶっ続けで走り通して到着は明晩となる予定である。


 バスのドライバーは、小野寺雅美、堀川幸一、相凛太朗の三人で交代しながら行く予定だ。

 久し振りに教師の出番だ。と言うか、単に、日本で普通自動車免許を取得し、自動車を所有しているために、真っ先に名前が上がっただけなのだが。

 トラックドライバーは森下幸之助、中邑一之進、田村零士の三人である。

 なんと田村は、今回が名前初登場だ。今までセリフどころか、名前すら出ていなかったのだ。どんだけ影が薄いのだろうか。

 もう一人、名前が出ていない人がいたような気がするが、忘れた。


「点呼とるよ! 出席番号一番から。」

「出席番号って何か懐かしいな。」

「余計なこと言ってないでさっさとする!」

 めぐみは完全に引率者状態だ。

 あいうえお順だと不動の一番、相(あい)凛太朗から順に番号を言ってバスに乗り込んでいく。

 バス乗客の定員は四十名だ。一応、クラス全員が乗ることができる設計である。

 今回はトラック運転手三人はトラックで行くので、バスに乗るのは運転手含めて三十二人だ。

 そしてトラックは十トン級、優喜がゲレミクに乗って行ったものの倍ほどの積載可能量を誇る。


「本当にバスだよ。何か木でできてるけど。」

 村田楓がきょろきょろとバスの中を見回しながら、感心したように呟く。

「座り心地はあまり良くないけど、我慢してくれ。」

 幸一が隣に座りながら言う。

 彼らの座る席はVIP仕様だ。後の一般席と違ってスプリングクッションが付いている。


 全員が乗り込んだのを確認して、めぐみが出入口の扉を閉める。

 扉はもちろん手動である。自動ドアなんて作っている暇なんか無いのだ。

「じゃあ、先生、出発で。」

 正面をビシッと指差し、めぐみが号令を発する。

「道分からないんだけど。」

 何とも締まらない教師だ。取り敢えず出発すればいいだろう。


「中央通りから北門を出て、そのまま真っ直ぐ北に向かって。優喜様が作った道はまだ残っていると思うから。」

「分かった。」

 小野寺はエンジンを掛け、クラッチを踏み、ギアをローに入れる。

 そして、クラッチを離しつつアクセルを踏んでいき、エンストした。

 魔導エンジンもエンストなんてものをするらしい。


「ちょお! 先生、しっかりしてくれよ!」

 幸一が笑いながらツッコミを入れる。

「済まん、マニュアルなんて運転したこと無いから。これはオートマじゃないのか。」

 小野寺は言い訳が激しい。

「オートマなんて作れないから。免許はマニュアルで取ったんでしょう?」

「そうなんだけどさ、もう十年以上も前だぞ。」

「良いから早く出発してよ。」


 生徒からのブーイングを受けながら再度チャレンジし、今度は発進できた。

 モタモタとギアチェンジをしながら、どんどんとバスのスピードが上がっていく。

 森下幸之助が運転するトラックは、その後ろからついて行く。こちらもスムーズに運転できているようだ。


 しかし、何かもう、バスとトラックが連なって走っている光景には、異世界情緒というものが無い。

 何しろ、バスには『ティエユ観光』、トラックには『ティエユ ヤマト宅配便』とペイントされている。マスコットは頭が二つあるネコ型ロボットだ。

 どうしてそうなった。


「おーい、堀川。ライトってどうやって点けるんだ? 暗くて道が見え辛いんだが。」

「ああ、ライトは装備してないんだわ。明かりの魔法を使うことになってます。」

 幸一は魔法を詠唱し、車体の前方下部に明かりを落とす。

 魔法の明かりはバンパーの辺りに貼り付き、バスの前方を照らしだす。


「取り敢えず、お昼過ぎくらいまではずっと北に進むだけのはずだから、できるだけかっ飛ばしてお願いします。あ、居眠り運転しないよう注意してくださいね。」

「それと、魔物には注意してください。近寄ってくる魔物は退治するので、見掛けたら声かけて下さい。」

 めぐみと楓が立て続けに注意と指示を投げ掛ける。



 クルマでの旅路は順調に進んでいる。

 日が登ってからは殆どトップスピードでブッ飛ばしていく。と言っても、トラックもバスも最高速は時速八十キロメートル程度だ。

 エンジンの出力から考えるともっとスピードを出せるように作ることもできたはずなのだが、そんなスピードを出す道路が無い為に、八十キロ程度で打ち止めである。むろん、整備されていない道路ではそんなスピードは出せない。

 それでも、馬車の数倍のスピードで突っ走ることができ、一日の移動可能距離は馬車の十倍以上にも達する。

 ティエユの町からギオグミア領都までは、優喜が三度通っているのでそれなりに道が綺麗になっており、スピードが出しやすいのだ。


 しかし、それでもゲレム帝国との国境までは九百キロ近くある。

 全行程を時速八十キロで進むことは、いくら何でも不可能だ。途中で幾つかの川を越えねばならないし、山中の隘路では流石にスピードを出すことはできない。

 何より、休憩も取らずに走る続けるのは、体力的・精神力にも無理がある。事故を起こしても仕方が無いのだ。

 どう頑張っても国境まで二十時間以上掛かる計算で、夜も走り続けることになると予想される。


 ひたすら土魔法で地均しをし、橋を作り、崖沿いの道の拡幅して、二台の大型車が進んでいく。

 夕暮れには土魔法の使い手たちの魔力が尽きかけているが、トラックには五百個近くの魔石を積んであるため、魔力不足の心配は要らない。尚、魔石はこれでもティエユに半分くらいを置いてきている。

 走りに走って、国境の関門に辿り着いたのは完全に真夜中になってからだ。当然のように、門は閉まっている。

 ウールノリアとゲレムの国境は山を挟んでいるため、ウールノリアを出てからゲレムに入るまでに山を越えねばならない。



 さて、門が閉まっているため、これ以上は進むことができないため、適当な場所を探して夜営をすることになる。

 国境へと来る前に、今夜はギオグミア領の町に泊まろう、なんて案も出たのだが、めぐみと楓によってあっさり却下されてしまった。誰が言いだしたのかは言うまでも無かろう。

 めぐみたちにとっては久し振りの夜営である。とは言っても、彼らはテントを張ったりするのではなく、土魔法で岩場に平屋の建物を建てて、その中に布団を敷いて寝るのだが。

 バスやトラックの車内で寝る者もいるし、通常のハンターや軍の夜営とは趣が違いすぎる。


 お腹空いたと言う者も多いため、トラックに積んだ籠から野村千鶴が果物を配る。

 各人それぞれ水魔法で手や顔を洗ったり、マッサージをしたりして一息付くと、寝る前にめぐみからお話があった。

「はーい、今日はみんなお疲れ様。特にドライバーの人はちゃんと休んでください。見張りは清水、榎原、田中、それに渡辺君でお願いね。すぐそこに関門の兵士の詰所もあるし、変なのは来ないと思うけど。明日は門が開いたら出発だから、そのつもりでお願いします。じゃあ、おやすみなさい!」

「おやすみー。」

 みんなで就寝の挨拶をして、それぞれ床に就く。

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