4-03 また変な動きが出てきた
ティエユの町を囲む防壁はまだ完成をみない。
小島明菜と園田愛梨の二人が頑張っているものの、土木工事を女子二人だけでやるということ自体、無理があるのだ。
町のサイズは約四キロ四方。ほぼ正方形だ。
二人でその周りに防壁を築いているのだが、一日に作れるのは二百メートル程度だ。それに対して、壁の全長は十六キロにもなる。完成まで八十日は掛かる見込みだ。
日々、魔力が向上しているとはいえ、そんなに劇的なレベルアップはしない。
さらに、彼女らの仕事には道路の整備もある。
町の中心部や主要な道路は土属性持ち全員で整備したのだが、生活道路は未整備のままだ。
土属性を四倍にする魔導杖を持つ二人だが、工事する範囲の広さに、人員不足感は否めない。
今日も作りかけの防壁を延伸し、その付近の小道を綺麗に整備していく。
防壁も道路も、作るところはハッキリしている上に変更も無いため、作業そのものはやりやすい。
壁を作る場所に、最初に鉄骨を打ち込み、鉄筋を組み上げる。荷車にインゴットを積み、倉庫から工事現場まで運ぶのも女子二人でやっている。
一個で三十キログラムほどあるインゴットを手で持って荷車に積み込む明菜は、芳香に次ぐパワー派女子だ。
愛梨がフルに詠唱し、レベル五の土魔法を発動させると、地面から大量の岩石が溢れだす。それを明菜の魔法が圧縮形成して壁にする。
壁の厚さは地面近くの一番薄いところで二メートル程度。上に行くほど厚くなり三メートル程になる。
これは壁面を登ることが困難になるよう、オーバーハングにしてあるからだ。
一セットの施工で、高さ十メートル、長さ二十メートルほどの壁が出来上がる。
二人で土魔法を繰り返し、防壁を築いていくが、レベル五の魔法をそう簡単に連発はできない。
その上、荷物を運んだり、施工位置わ方向の確認のために壁に登ったり降りたり、かなり体力も使う。
二セットを連続して施工すると息切れするほどだ。
小休憩を挟んで、道路整備しながら倉庫に戻り、インゴットを積んで再び防壁工事に向かう。
今日の目標は、東壁を北壁まで伸ばすところまでだ。それが終われば、北半分の壁は完成だ。
鉄骨を打ち込み、鉄筋を組み上げると、二人は昼食へと向かった。
食堂は賑やかだ。
稲嶺高校一年五組の生徒たちも、学生気分が抜け、働き手の顔になってきている。
一部、変わらぬ者もいるが、そこはそれと言うやつだ。
ほぼ全員が物作りに直接的に関わる仕事がメインで、互いにやっている事が分かりやすく、それぞれに張り合いがあるというのも大きいのだろう。切磋琢磨して前に進もうという雰囲気がある。
その頃。
新しい神託に、神殿は大騒ぎになっていた。
災禍の種がゲレム帝国に根を張っただの、暗黒の時代が迫っているだの、既に血が流れ始めているだの、物騒なことばかりを告げられたと言うのだ。
これが本当にヨルエなる者の言葉なのかは分からないが、人間に神と呼ばれ得る者が存在することは確かなのだろう。
我々を差し置いて神を名乗るとは生意気な奴らだ。神罰を与えてやりたいが、私がこの世界で力を振るうわけにはいかない。
何より、この世界を管理する神が許容しているならば、私が横から口出しをするものでも無い。口惜しいが、静観するしかあるまい。
だが、この神託を下している者の意図がわからない。まるで、世の中が荒れる方向に持っていきたいようだ。
ウールノリアの大神官は、現状の把握と今後の動向について、国王への謁見を求めた。
ウールノリアでもゲレム帝国でも神官たちは神託とやらを間に受けて、パニックになっている。
「お前たち神官が要らぬ騒ぎを起こすから戦争などが起きるのだ。世の中を乱しているのは神官たちなのだといい加減自覚しろ!」
神官たちの言い分を聞いて、ドクグォロスは声を荒らげる。
王太子の言い分は、優喜と同じだ。
「これ以上、根拠のない流言飛語を垂れ流すならば相応の刑に処すゆえ、軽率なことはせぬように。」
「ヨルエ様のお言葉でございますぞ!」
神官は神の名を出して食い下がる。
「それはお前が言い張っているだけでは無いか。本当にヨルエ神からの言葉なのか? 何者かがヨルエ神を騙っているのではないか?」
ドクグォロスは不快感を隠しもせずに言う。
「自分が言っているのだが正しい」と言って良いのは国王だけだ。神官ごときがそんな態度でいれば不愉快なのは当然だろう。
「ヨルエ神からの言葉なのだと証明してみせろ。それができぬならば、ただの妄言である。それをみだりに流布するようなことは許さぬ。」
有無を言わさぬ強い口調でブチグォロス国王が告げ、大神官は項垂れる。
「あ、あの、お伺いしたいのですが、よろしいでしょうか。」
年老いた神官が質問を願い出た。
「何だ?」
「国王陛下や王太子殿下は、災禍の種に心当たりがあるのでしょうか。」
「お前たちの言葉だと、ウールノリアに生まれた災禍の種が、今、ゲレム帝国に根を張っているのだったな?」
国王が確認する。
「はい。神託ではそのように言われております。」
「ならば、ティエユ卿を指しているのであろうな。」
「その者を処罰するなどは考えていないのでしょうか。」
「莫迦を言うな。ティエユ卿は我が国に利益しか齎していないぞ。彼奴にくれてやるべきは褒賞であって、処罰ではあるまい。」
ドクグォロスは神官を見下して言う。
「そもそも、ティエユ卿は、誰にとっての災いの種なのだ? お前たち神官にとっては災いなのかも知れぬが、それが我々王家や多くの民衆にとっても災いなのだと、どうして言えるのだ? 私はティエユ卿は発展と繁栄の種だと思っている。」
王太子の言葉に神官たちが目を剥く。
「災禍の種などと大仰なことを言うが、単に、大きな力を持つ者の扱いには注意せよ、という只それだけの事ではないのか? 味方に取り込んで上手く扱えば利益を成すし、敵に回せば脅威になる。わざわざ敵対する道を選んでどうするのだ? それで何か得るものがあるのか?」
大きな力をを持つエフィンディルが来た時に、優喜も同じことを言っていたな。
「災禍の種に悪意を向ければ、その実は自分に返ってこよう。もしも災禍が人間ではなく魔龍に向かうならば、何の問題もあるまい?」
ブチグォロスが総括する。
ドクグォロスもそうだが、名前に似合わず理性的な王である。
「それより先の政治の話は、お前たちに口を挟まれることではない。他に話がなければ、下がるが良い。」
これ以上話しても時間の無駄だろう。ドクグォロスが、終了を告げる。
「神官殿、退出を。」
侍官に促され、神官たちは謁見の間から出て行く。
「ドクグォロス、神殿はどう動くと思う?」
客がいなくなった謁見の間で、ブチグォロスが息子に問う。
「あれだけ釘を刺しておいたのですから、国内で莫迦な動きをすることはほぼ無いでしょう。変な流言に惑わされることの無いよう、各地の領主にも言っておけば問題無いかと思います。」
「それで民衆は納得するか?」
「単に、嘘だ気にするな、では難しいでしょうね。神官たちの言う災禍の種には既に手を打って対策を立てているから心配いらない、とでも言っておけば良いでしょう。ゲレム帝国が攻め込んできて十日で戦争を終結させた事実も含めて言えば、納得できるでしょう。それよりも問題は周辺諸国です。」
「理性ある態度をでいてくれると良いのだが。」
「ゲレム皇帝のように、兵を挙げるような愚かな国が出てこないことを祈るしか無いでしょう。」
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