2-24 兵の敵は国の敵
城門で門番に呼び出しの書状を見せるとともに、武器となるものを献上したいと言って布で包んだ魔導杖を出す。門番の一人が走り三人の近衛兵を呼んでくると、包みの中身を見分する。
「これは、何だ?」
「私が作った魔導杖でございます。」
「石もついていないようだが、役に立つのか?」
「全く役に立たないことは無いはずですが、有益に使えるかは魔導士団長に確認していただきたいと思っています。」
「分かった。とりあえず預かっておこう。」
二本の杖を再び布で包むと、二人の近衛兵が一本ずつを持って優喜の前に立って会議室へと向かう。会議室には既に、魔導士団長と王国軍団長が来ていた。
相変わらず王国軍団長ゲリノモベン・スクワ・ティアスディア・ケナイウムとは険悪な状態だ。というのも、以前に優喜がグリカイゼで首を刎ねた兵士長はゲリノモベンの従兄であったらしい。
優喜は事務的に魔物に対して有効な戦術について説明していく。その説明が進むにつれ、ゲリノモベンの表情はさらに険しくなっていく。
優喜の戦術は魔法を主体にしたもので、槍や斧を持つ兵は魔導士の補助、盾としての役割でしかない。それでその兵を束ねる者が喜ぶはずもない。さらに追い打ちをかけるように、優喜は下級兵は役立たずだから引っ込めて鍛えなおすべきなどと偉そうに言いだした。
この男は本当によく、相手の気持ちとか立場を全く考えないで発言をするものだ。
顔を真っ赤にして怒るゲリノモベンを魔導士団長メケシール・ヘンゾアスト・ミョビエネ・ガンタナメヒが取り成そうとするが、それはそれで逆効果である。魔導士団長が何を言っても、優喜に魔導士の方が上だと言われて調子に乗っているとしか受け取らない。
「そんなにご自分のプライドが大切ですか? 大勢の部下の命よりも、家族の平和よりも、王家への忠誠よりも。」
優喜は呆れたように言い、さらに火に油をぶちまける。
「ふざけるな! それを蔑ろにしているのは貴様ではないか!」
「私は誰も死なない戦い方を、確実に勝てる方法を示しているだけですよ。部下などいくらでも死ねば良いと思っているのはあなたではないですか。」
「戦に犠牲は付き物だ。それの何が悪いのだ!」
「犠牲を出さない方法があるのに、犠牲を出すのは阿呆というのですよ。わざわざ戦力を低下させてどうするのですか? この国を潰したいのですか? この国を、部下の兵のことを思うならば、無傷で勝つ方法を考えるべきではないのですか?」
優喜に一気にまくし立てられて、ゲリノモベンは返答に窮する。
「ゲリノモベン閣下はグリカイゼの兵隊長とはご親戚なのだそうですね? あれはどうしようもない莫迦でしたから首を刎ねるしかありませんでしたけど。まさか閣下も同じ道を辿ったりはしないですよね?」
ゲリノモベンが声を張り上げたのと同時に、王太子が入室した。
「王太子殿下の前で無礼ですよ。」
優喜がしかめっ面で窘める。
「いつも無礼なお前が言うな。で、何の騒ぎだ?」
「殿下、何故このような兵の使い方も知らぬ者を取り立てて私たちに意見などさせるのですか?」
「ふむ? ユウキは一人でグリカイゼをはじめとして六つの町を窮地から救ったと聞いているが、兵の使い方も知らなくてそのようなことができるものなのか?」
「このような者の出任せを信じていらっしゃるのですか?」
「いや、そう言っているのは各町の領主だが? むしろユウキは自分は何もしていないと言っているくらいだ。」
「前線で必死に戦っているのは町の兵やハンター達ですよ? 私は確実に勝つための作戦を与えただけです。」
「それを兵を使って勝利に導いたと言うのだろう?」
「重要なのは、頑張ったのは私じゃなくて兵やハンター達だということなのですよ。彼らがいなかったら私一人ではどうにもなりませんからね。グリカイゼの莫迦兵隊長も軍団長閣下もそこを分かっていらっしゃらない。」
「どういうことだ?」
「兵はゲリノモベン閣下の名誉のために消費するものではありません。より多くの、強大な敵と戦うためには、名誉など捨てでも兵を温存すべきです。それを理解できないなら私が首を刎ねて差し上げます。」
「軽々しくそのようなことを口にするな。」
「いえ、これは言わせてください。今まで税を食んできた分、兵たちにはしっかり働いてもらわねば困ります。ちゃんと生き残って一匹でも多くの敵を倒していただかないと。何もしないまま殺されてしまうなんて、税の無駄遣いではありませんか。だいたい、目の間に敵が迫っているこの状況で、兵が減って喜ぶのはこの国の敵ですよ。当たり前じゃないですか。他の町や村の救援に行くだけの戦力が無くて困っているのに、さらに減らしたらこの町の守りすら危うくなりますよ。なのに、何故兵を犠牲にする運用をしようとするのでしょう? 私には、裏切り者だから、という理由しか思いつかないのですが。裏切者ならば、さっさと首を刎ねるべきでしょう。」
「なるほど。ユウキの発言は筋が通っていると言えるな。ゲリノモベン、兵にも魔導士にも民にも犠牲が出ないような作戦を練ってくれ。」
「そのような作戦等ございません。」
「さきほどユウキ様から提示があったではないか。ゲリノモベン様のお気に召さないだけで、作戦が無いわけではないでしょう。」
優喜の作戦方針では、メケシールたち魔導士は大いに活躍できることになっているのだから反対する理由が無い。王太子が優喜の意見を採用しようとしているのを見て即座にそちら側に回った。
「それと、私からもう一つあるのですが、良いですか?」
「なんだ?」
「魔導杖を二本お持ちいたしました。王太子殿下にお見せしていただけますか?」
優喜は近衛兵に向かって声を掛けると、魔導杖を持った二人がドクグォロスの側により布を開いて中の杖を王太子の前に置いた。
「これが魔導杖? 石もついていないし随分不格好だな。役に立つのか?」
「急いで三日で作ったものですから、そんなに言わないでくださいよ。それと石って必要なのですか? 参考にしたものには無かったから、必要なものしか材料として使っていないのですが。役に立つかはメケシール閣下に見てもらいたいのです。」
「何故ハンターや魔術師協会に聞かず、私に? ユウキ様はもともと平民のハンターなのだから、同じハンターに聞いた方が早いだろう?」
「私がこれを作るに当たって参考にしたものは、かなり貴重な物と言われました。私としてはそれに見劣りすることの無い性能があると思っております。確かに見た目は劣っていますが。これがどの程度の評価を受けるか分からない状態で、私が魔導杖を作れることを知られたくないのです。万一、価値が高い物だった場合、騒ぎになりかねませんので。」
「成程な。メケシール、早速演習場で使って性能を計ってくれ。私もその性能は見てみたい。今すぐ行くぞ。」
一方的に言ってドクグォロスは立ち上がると、部屋から出て演習場へと向かっていく。
近衛兵が慌ててそれに続き、ユウキとメケシールはその後ろからついて行く。
「一本が火属性の強化、もう一本が土属性の強化用です。見分けは…… 使ってみれば分かります!」
「どう使えば良いのだ?」
「魔法陣の属性紋の所に差し込む感じで、後は普通に魔法を使用していただければ威力が強化されます。」
「属性紋?」
「魔法陣の中の、属性を示す部分です。火属性だとこの形の部分です。」
優喜は魔法陣を書いて説明する。
メケシールがレベル三の火魔法の魔法陣を書いて杖を差し込むと、刻まれた紋様が赤く光る。そして、詠唱が終わって強烈な炎が放たれた。
メケシールは目を見開いて振り返り、優喜を見る。
「どうですか? 私の杖は魔導士団でも役に立ちそうですか?」
「どうやって作った? どこで作り方を知った?」
「レイメビの魔術師協会で文様の刻み方と、魔法材料の調合の仕方を教わりましたけど。紋様自体は敵から奪った槍にあったものをそのまま組み込んでいます。で、役に立ちそうなのですね?」
「こんな莫迦げた威力の魔導杖など聞いたことが無い。」
「そうなんですか? 威力が二倍から三倍くらいになるはずですが。」
「普通は二倍になどならん! 私の杖で、数割増しだ。その槍とやらでも二倍になるのか?」
「はい、そうです。どうにかして複製したかったんですよ。あの槍は私が持つには重すぎるんです。」
「その槍のことはどれだけのハンターが知っているのだ?」
「私の仲間以外だと、三級の翠菖蒲だけだと思いますよ。彼らも秘密にしておきたそうでしたから。」
「その槍を献上しようとは思わなかったのか?」
「この国の兵や民を殺した武器を王太子殿下に献上するのもなんか失礼なような気がしまして。それと、もうひとつ、水属性の槍が手に入っていないのです。火、風、土の三本は入手しているので、献上するとしたら最後の一本を手に入れてからですね。」
それを捜すためにも、魔槍を持つ強力な敵を倒すためにも戦力の強化が必要で、魔導杖の作成はその一環でもあると言う。二本の魔導杖は実用品として献上され、魔導士団の実力の高い物に下賜されることとなった。
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