2-08 長い一日

 ハンターたちは、畑に入っている魚獣から退治していった。優喜の言う通り、北に行くほど敵は多く、また、群を構成している数も多くなっている。南側では四匹程度が主流だったのが、北に一時間も進んだあたりでは、六匹から八匹程度の群が目立つ。

 しかし、ハンター側は三級を含めて、単独て動いているパーティーは『ヤマト』だけであり他は全て十五人を超えるチームを組んでいるため、敵の群のサイズそのものが多少大きくなったところで大した問題ではない。問題は複数の群を同時に相手取る必要に迫られるほど、敵の密度が高いことだった。

 そして、その『ヤマト』と言えば、畑の端に一際高い土柱を作り、その上でキャーキャー騒ぎながらビームを乱射していた。芳香も近接戦闘は諦めて、ひたすら火魔法を放ち続けている。

 門を出て三時間程も経ったころには百九十六を超える数の魚獣を狩り、声に寄ってくるものがなくなると『ヤマト』は一度町へと戻る。

 ケモノ窓口で優喜はプレートの提示だけして、清算は後回しで再び急いで狩に向かう。今度は北東に向かい、そこでも同じようにして、周囲のハンターたちを呆れさせながらも確実に討伐数を伸ばしていき、夜までに六百という突き抜けた討伐数を稼いでいた。


 日没で一度狩を終了し、ハンターたちは町へと引き上げる。一々招集せずとも各パーティーのリーダーが集まり、それぞれ情報共有していた。優喜たち『ヤマト』も町に帰り着くと、優喜がそこに加わる。芳香たち三人は、魔力と気力を使い果たしてふらふらになりながら食事へと屋台広場へ向かって行った。

 ハンター組合の会議室では優喜が来る前から、チーム分けについての議論がなされていた。三十近くの凶暴化した群との交戦を二チームが経験しており、死ぬ目に遭った者たちが、人数の増強や、より強いパーティーと組むことを強く希望しているのだ。昨夜軽口を叩いていたムレイグも凶暴化した大集団に遭遇したらしく、必死に少人数の危険性を叫んでいる。

 ただし、その主張を聞いていると、少々疑問符が付くような所もあり、優喜も不機嫌そうだ。

「凶暴化した奴らは、特定少数に狙いを定めてまとまって襲い掛かってくる。人数が多ければ、自分がそのターゲットになる可能性が低くなる。ですか? 死ぬなら他の人が死ねと。」

 ムレイグは咬みついてきそうな勢いで睨み、立ち上がろうとするが、他の者に抑えられる。

「三十五人、四十二人まで人数を増やしてどう戦うのです? いったいどんな戦術を取るために、人数が必要なのです? その指揮は誰が執るのです?」

 優喜のもっともな疑問に、周囲の人の視線がムレイグに向く。

「自分の身代わりになりそうな人をいっぱい用意しておきたい、のでないならば、その辺りをちゃんと説明すべきです。」

「お前はどうなんだよ! 人数集めろって最初に言ったのはお前だろ!」

「基本は、索敵能力を高めることですよ。七人もいないチームで常に全周囲を警戒しながら移動、さらに狩りをするのは困難ですからね。そして、早期に発見したら可能な限り遠距離から魔法で数を減らして、あとは前衛が一人一殺すれば残っていても数匹、どうとでもなる数。という作戦を想定していますよ。」

「だから、チームの人数が七人もいないなら増やすことを考えた方が良いですが、十四人を超えているならば、その人数をどう活かすかを考えた方が良いと思いますよ。」

「作戦とかそんなの後で考えれば」

「ダメです。特に作戦も戦術も無い、それはチームとして統率が取れていないと言うのです。そんな状態で敵と戦うのですか? それで人数を増やしたって、右往左往する人が増えるだけですよ? おい、どうする! とか言ってモタモタするんですよ。それで何か良いことがあるんですか?」

「確かに、そうだよな。今の十六人で統率取って動けるようにならんと、人数が増えても混乱が増えるだけか。」

「隊列とか、取り敢えずで決めただけだし、まずそれを考えろってことかあ。言われりゃそうだよな。今の人数でちゃんと指揮できてねえわ。」

 優喜の意見に、周囲の面々は納得する。


 各チームの報告をまとめると、今日の結果としては犠牲はゼロ、討伐総数は二千を超えるものとなった。しかし、相変わらず敵の数は掴めず、まだ相当な数が町の近くにいると予想される。そして、ハンターたちも疲労している。そのため、夜はゆっくり休んで明朝また討伐を再開する方向となる。

「それはそうと、夜間の調査は実施したいのですが、誰かお手伝いお願いできますか?」

 カナフォスとバナセンキが名乗りを挙げるが、優喜は、できれば五級の中から、夜目が利く、或いは聴覚に優れたものが良いと言う。

「狩ではなく、あくまでも調査ですので、戦闘能力は低くても構いません。六級、七級でも良いです。というより、寧ろそっちの方が戦力的に都合が良いのですが、その方面で優れた人がいるなら紹介いただけませんでか?」

「それは自殺行為だろ。そんな無茶なことに付き合える奴はいないぞ。」

「私たちのやり方を見た人は分かると思いますが、安全圏を作りますので、そう危険ではないと思っています。簡単に言えば、あの上で見張るだけです。」

「囲まれたらどうするんだ? 帰ってこれなくなるだろう。」

「ある程度の数がまとまってくるなら、寧ろ好都合です。私の魔法で一網打尽にするまでです。」

「できるのか?」

「そのための温存はしています。問題ないでしょう。」

 カナフォスの問いに、邪悪な笑みを浮かべて答える。


 五級からソンギア、ヘルヘトノ、六級からゴニマシトンが夜間の調査に参加することとなり、優喜たちは食事を済ませると西門を出た。

 街道を進みながら調査について説明する。第一に、魚獣の夜間の動きを見ること。どれほど動き回るのか。夜目は利くのか。そもそも眠ったりするのか。といったところ。

 第二に、夜は昼とは別の状態になったり、性質を持ったりするのか。例えば、夜間は凶暴化しやすい状態になることも考えられる。

 第三に、どこかのお伽噺のように、月の光を浴びるとパワーアップしたりしないか。

 やる事は櫓の上から見るだけだが、観察ポイントまでの往復は奇襲に注意して、周囲に最大限警戒を払いながら進まねばならない。


 街道を一キロほど進んだところで畦道に入り、北に向かう。

「拳よりも大きなものが動く気配があったら手短に報告してください。それ以外の無駄口は禁止です。」

 優喜は低い声で指示し、夜闇の道をすすむ。街道には兵士たちが松明を並べており、比較的明るさがあるが、畦道を行くと、その光はすぐに届かなくなる。

 星明かりの中、四人は一列に並んで進む。

 畑の外縁を越えて暫く進んだところで、闇の中に動くものの気配を察知し、優喜は土柱魔法で物見櫓を作って周囲を隈なく探す。

「北東に九十八歩くらい。何かいる。」

 ヘルヘトノが抑えた声で告げる。

 全員で言われた方を見るが、中々見つからない。

「動いていますか?」

「今は動いていないな。」

「ウサギかも知れん。遠すぎてちょっと分からんな。」

「ちょっと脅かしてみますか。」

 石飛礫を一つだけ飛ばしてみると、一呼吸おいて影が動く。微かにギャイギャイと魚獣の耳障りな鳴き声が聞こえるが、あまり動こうとしない。

「殆ど動かないな。」

「夜は活動しないタイプなんでしょうかね。一旦下りますので、周囲気をつけてください。少し西側に行きます。」

 優喜は土柱を戻し、一行は気配を殺しながら北西へと向かう。

「正面にいます。」

 優喜が言って止まると、三人が急いで駆け寄る。優喜は土柱を立てて、辺りを見回す。

「なんか、結構いないか?」

「寝てるんですかね? 動きませんよ。」

 眼下の草むらには、数十匹の魚獣が身を屈めてじっとしていた。

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