94.5話 『姉の肉』

94.5話『姉の肉』



 その日、長女桜の要望通り真奥家のディナーは焼肉だった。

 ホットプレートを家族四人で囲み、肉と野菜を焼いて食す。


「莉羅、ニンジンとピーマンも食べましょう」

「えぇー……やーだー……」


 お母さん的存在である長男テルミは、妹の皿にニンジンを置いた。

 莉羅は不満気な顔で体を左右に揺らす。


「いつもはきちんと野菜も食べてるじゃないですか」

「にーちゃん……焼肉は、肉を……食べるもの……だから、野菜は……必要無い……の」


 莉羅は多少苦しい持論を展開しつつ、ニンジンを兄の皿に移した。

 しかしテルミはそのニンジンを箸で掴み、莉羅の顔の前に差し出す。


「食べなさい、莉羅」

「ううー……」


 莉羅は目を閉じ、オレンジ色の塊をパクッと口に入れた。

 熱を通し柔らかくなった根野菜は噛みやすく、するりと喉に落ちる。


「次はピーマンです」

「えー……」


 再び箸で野菜を掴み、妹に差し出す兄。

 しかしそれを見た姉が、


「もーテルちゃんったら! 莉羅ちゃんにばっかり『あ~ん』してズルいー! あたしも、あたしも! お肉をあ~んしてよ!」


 と喚き出し、テルミの肩を揺すりだした。


「莉羅にあげているのは、肉じゃなくて野菜ですが」

「いいからお肉ー!」


 仕方なくテルミはピーマンを莉羅の皿に置き、鉄板の上にある良く焼けた肉を箸で掴んだ。

 だが、その肉を姉に献上する前に、


「お前達、もっと静かに食べんか」


 祖父が苦情を口にした。

 だが、そんな祖父の皿を見て、テルミが一言。


「お爺さんも、タマネギを食べてくださいね」

「ぬう……」


 祖父はタマネギが嫌いなのである。


「いや、わしは食わん」

「食べてくださいね?」

「食わん」

「食べてくださいね?」

「……うむ」


 そして祖父は、渋々タマネギを口に入れたのであった。


「ねーテルちゃん、あたしのお肉は!? お肉! お肉!」




 ◇




94.75話『姉の肉Ⅱ ~姉弟全裸祭~』



「ねえテルちゃん。あたしもお姫様抱っこしてよ」

「姉さんを、ですか?」

「そうよ! あの妖怪女だけ不公平でしょ! 不公平だ! 断固抗議するわ! あたしも! あたしも! お姉様は持ち上げられないっての? そんなのおかしい~! あたしも抱っこー! 抱きなさい輝実。これは命令よ。反抗は許さないわ」

「……分かりましたよ、姉さん」


 テルミは根負けし、桜を抱え上げた。



 二人とも全裸で。



 ここは浴室。

 テルミの入浴中に、またもや桜が乱入。

 そんな状況の中、抱く抱かないの問答をしていたのだ。

 

「うっ……」


 桜を抱きかかえた瞬間、テルミは苦しそうな声を上げた。


「何よその『うっ』って。もしかして重い?」

「い、いえ……」


 正直、重かった。


 桜は豊満なバストとヒップを持ち、それでいてウエストは細い。つまり見た目だけでは重いとも軽いとも分からないスタイル。

 だが胸よりも何よりも、桜の強靭な骨と筋肉はその密度が並とは桁違いなのである。


 見た目は非常に細い腕、足、腹。

 しかし、鋼鉄のように固い。

 武術一族としての生まれつきの素養に加え、幼き頃より大魔王の魔力が肉体に影響を及ぼしているのだ。


 だが、「重いです」と直接姉に伝えるわけにもいかない。


「と……とても軽いですよ」

「まあ、ありがとうテルちゃん!」


 桜は喜び身をくねらせた。

 すると、姉の上半身を抱えている方の手――テルミの右手指先が柔らかいものに当たり、ふにっと吸い込まれるように突き刺さった。


「やぁ~ん。テルちゃんがおっぱい触った~!」

「す、すみません」


 テルミは慌てて桜を降ろす。


「しかし今のは不可抗力……」

「もぉー、触りたいんなら好きに揉んだり吸ったりしていいのに!」

「うわっ!?」


 桜は弟の頭を掴み、引き寄せた。

 テルミは前屈みになり、姉の胸に頭を突っ込む。


「やぁ~ん。また触った~!」

「これは姉さんが押し付けているだけです……!」

「お返しにこっちも触っちゃえ!」

「あ……っ!」


 桜の手がテルミの腰へと伸びる。

 そしてその晩も、弟が姉を説教する声が聞こえたという。

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