-22話 『狐、変な語尾やめるってよ』

「もやもや……」


 キューちゃんは、陰陽師から吹き出す霧を見て訝しんだ。

 特ににおい。

 先程、突然正気に戻った玉藻の周りを漂っていた黒い霧。あれと同じ臭いがする。


「……でも色が違うアルな……おい若造。玉藻にかけてた我の妖術を解いたのは、お前アルか?」


 キューちゃんが陰陽師安倍泰成やすなりに問う。

 それに対し泰成は、その細い目を更に細くし苦笑した。


「いいえ、残念ながら修行中の身である私には無理でした。ご先祖様の力添えありきです」

「ゴセンゾ?」


 キューちゃんは、泰成から数歩離れて立っている白髪の老人に目を向けた。彼からもまた同じ臭いがする。

 あの老人が魅了チャームを解除したというのだろうか?


 キューちゃんは二人を睨みつけながら、つかつかと近づいた。


「ふーん、まあいいアル。とにかくお前ら、我の前から……」


 そう言ってキューちゃんは、泰成の髪に触れ……口の端を上げた。


「どけヨ」

「あ、ああ……はい……」


 かかった。

 泰成の糸のような目に、恋の熱がこもっている。

 完全に魅了チャームの虜に……



 パキン。



 キューちゃんと白髪の老人、二人にしか聞こえない破裂音がした。


「危ない所でした」


 破裂音の直後、泰成の瞳が正気に戻った。

 魅了チャームが解除されたのだ。


「お前、何で勝手に術が解けてるアル……わわっ」


 泰成の右手に纏わり付いている霧が、キューちゃんの顔に襲いかかった。

 慌てて後ろへ飛び退き避けようとしたが、なびいた髪に霧が触れてしまう。

 ジュッと焦げる臭いと共に、一房の髪先が溶けて無くなった。

 これは不味いと、キューちゃんは妖術により風を起こし霧を振り払う。


 その隙に泰成は白髪の老人に顔を向け、素早く頭を下げた。


「申し訳ないご先祖様。私も狐の妖術にかかる所でしたよ」

「ふむ、というか完全にかかっていたがね……しかし、少々過保護だったかな?」


 そう言って微笑んでいる老人を、キューちゃんは注意深く眺める。


 黒い。

 老人の両手から、黒い霧が微かに放出されている。そしてその霧と同じものが、泰成の首筋辺りに漂っていた。

 どうやらあの黒い霧が、魅了チャームの術を打ち消してしまうらしい。


「黒い霧、アルか……!」


 そこでキューちゃんはやっと、ぬらりひょんの忠告を思い出した。

 陰陽師、特に黒い霧に気を付けろ。

 あの精霊が言っていたのは、おそらくこの老人の事なのだろう。


 ともあれ数千年……いやカルドゥースの時から数億数兆年、破られる事が無かった魅了チャーム。それがこの日本で、二度も『勝手に解術』されてしまったのである。


「まったくこの国の爺さんどもは、妖術解くのが得意アルな。イラつくアル……でも……」


 キューちゃんは改めて黒い霧の老人を睨む。

 同じ魅了チャームの解術でも、この老人はぬらりひょんとは違うように思えたのだ。


 狐の勘は正しかった。

 老人の解術法は、ぬらりひょんの方法とは根本的に違う物である。


 ぬらりひょんが天狗にかかった魅了チャームを解いた時は、得意の『気を逸らす技』で体内の気の乱れを矯正していた。ぬらりひょんの妖力はキューちゃんに遠く及ばないが、相性の問題でなんとか解術出来たのだ。

 しかしこの老人が取った手段は、もっとシンプル。


 強大なエネルギーで、魅了チャームの術をかき消す。


 ただ、それだけである。



「おい、何だか知らんアルが、そこの爺さ……」


 キューちゃんは文句を言おうと老人の目を見て、


「……ッ!?」


 得も言われぬ恐怖を感じ、口を閉ざした。


 黒い霧なる術を発動したせいだろうか。老人の周りを漂う空気が、先程までと何か違う。

 老人自体は相変わらず好々爺然としている。

 だが、妙な気迫がある。

 目を合わせるのが怖い。霧が怖い。

 このままでは、


 殺される。


「わっ、わっ、わっ……我……あああーもう! もう! もーう!」


 キューちゃんは妖術により高く飛び上がり、陰陽師達の頭上を飛び越えた。

 そのまま宙を浮き、野生の獣でも追い付けない程の速度で宮廷の門を目指す。


「ここは一時撤退アル……逃げたわけじゃないアルもん! 敢えて帰るだけアルもん! ふーん! ふーん!」

「あっ、待ちなさい狐さん」

「オマケの雑魚は引っ込んでろアルー!」


 泰成に対して負け惜しみを叫びながら、キューちゃんは正門へと向かう。


「やれやれ、私はオマケ扱いか……ちょっと追いかけて来ます、ご先祖様」

「うむ。無理をせぬようにな」


 泰成は「あーあ」と少々面倒臭そうに駆け出した。



 一方、宮廷門前。

 ミツザネが、陰陽師の命令通りに外で待機していた。


 良く理解しないままこの場にいるが、「狐のせいでお上の危機だ」というのは何となく分かっている。

 ここで活躍すれば、豪華な褒美を貰えるかもしれない。


「気合い入れるで。わらじの紐、固く結び直しといたろ」


 そう言ってしゃがみ込んだ、その時。

 ミツザネの頭上で一陣の風が吹いた。


 ミツザネは「風ぇ強いなあ」くらいにしか思わず、視線をわらじに向けたまま。

 そしてそのであるキューちゃんも、慌てていたため地面のミツザネには気付かなかった。


 二人はすれ違い、そしてまた別れた。




 ◇




 キューちゃんはとにかく逃げた。逃げに逃げた。逃げて逃げて七日。下野国しもつけのくに、つまりは現在の栃木県までやって来た。

 こんな遠くまで来たのに、陰陽師はまだ執拗に追いかけてくる。


「もう! もう! もう! いい加減逃げるのは飽き飽きアル!」


 キューちゃんは廃屋に潜み隠れ、そこで見つけた小さな紙人形に魅了チャームをかけた。

 こうする事で人形はキューちゃんに惚れ、なんとか彼女の役に立ちたいと必死になり、紙に眠る潜在能力を開花させる。エスパー人形の出来上がりだ。


 人形は動きだし、空を飛んだ。

 陰陽師の元へ偵察に行き、テレパシーでキューちゃんに様子を伝える。あまり鮮明では無いが、狭い範囲の情景も分かる。

 現在で言うなら、カメラ付きドローンだ。


 ドローンはすぐに見破られ、毒霧で溶かされてしまった。だが泰成の状況は充分伝わって来た。

 泰成はお供の武士を数人引き連れている。

 そしてその集団の中に、あの白髪の老人はいないようだ。


「返り討ちにするなら、今の内アルな」


 黒い霧の老人ならともかく、あの若い陰陽師相手ならまだ勝算はある。というか楽勝だろう。

 魅了チャームはまたすぐに打ち消されてしまうかもしれないが、それでもキューちゃんは並の精霊や神では太刀打ち出来ない程の妖力を持っているのだ。


 潜んでいる部屋に、ひび割れた姿見鏡が置いてあった。そっと覗き込んでみると、絶世の美女が写り込む。

 キューちゃんは逃走劇の最中も、美女の姿のままであった。

 前髪に手を触れる。毒霧により一部が溶かされ、不揃いだ。落ち着いて変化しなおし、髪を元に戻した。

 

「……今更髪だけ直しても、しょうがないアルな」


 ポツリと呟くと、屋敷の前から声がした。


「狐さん、ここにいるのでしょう?」

「……ちぇっ、もう来たアルか。あと少し休みたかったアルけど」


 廃屋敷の門前にて、若き陰陽師が待ち構えている。

 キューちゃんはもう逃げ出すことはしない。

 その場で大きく息を吸い込み、



「お前ら、しつこいネ! 食い殺すアル!」


 

 大声を出し、変化……いや本来の姿に戻った。


 屋敷を大破させ現れた、狐の化け物。


 像より巨大な体躯。その体をすっぽりと覆える程に太く長い、九本の尾。

 絹のように滑らかな、クリーム色の体毛。

 金剛石より硬い牙。


「とうとう正体を現しましたね」


 泰成は額に汗を流している。

 狐が目と口を大きく開くと、つむじ風が起き大地が揺れた。


「覚悟しろアル、ニンゲン。もうお前は死……」


 と、恫喝しようとした矢先。

 一人の男が視界の端に入り、キューちゃんはつい台詞を言い淀んでしまった。


「や、ややややや泰成殿! バケモン! バケモン! バケモンやんけえええ!」

「落ち着いてくださいミツザネさん……ちょっと、今忙しいから後にして貰えます?」


 陰陽師に抱き付いているのは、一年前に橋の上で出会った男。ミツザネであった。

 キューちゃんは先程より更に大きく目と口を開き、唖然とする。


「な、なんでお前がいるアルか……!」

「隙あり、ですね」

「……えっ?」


 気付くと、後ろに泰成以外・・の陰陽師が三人いた。


 泰成だけでは荷が重い、かと言って自分が出向くと子孫の修行にならない。

 そう考えた泰成の先祖……九蘭琉衣絵るいえが、応援をよこしていたのだ。


「わっ、わっ、い、痛いアル! 何するネ……ああああ!」


 三人の手から放たれる毒霧。

 キューちゃんの体が、炎天下の薄氷のように溶け出した。


「おっ、泰成殿の親戚方達がバケモン捕まえよったで!」

「ええ。後はあの狐を溶かし殺すのみ……あの、どいてくださいミツザネさん」


 泰成はミツザネから離れ、自身も両手から毒霧を放つ。

 毒霧使い達の術により、九尾の四肢がもげ、血が辺りに飛び散った。


「い、痛い……陰陽師め……霧め………………ミツザネぇ……! よくも、よくも我をこんな目にぃいいい!」

「え、えええ!? なんで俺を名指しやねん!」


 そうして半刻も待たずして、九尾は溶け消えてしまった。


 グロリオサの毒霧が妖狐の血と混じり合い、地面に染みついている。

 それから数百年の間、そこに近づく動物達はガス中毒により命を奪われるようになった。




 ◇




 狐退治が終わり、一同は再び泰成の邸宅へ戻った。


「ご先ぞ……いやお爺様の言う通りでした。あの化け狐はミツザネさんの姿を見たら何故か狼狽し、その隙に倒すことが出来ましたよ。最初はこんな軽薄で泥臭い田舎者を入れても仕方ないだろうと思っていましたが……やあ、さすがさすが」

「軽薄な泥臭いて……」

「おっと失敬。とにかくミツザネさんは期待以上でした」


 そう言って泰成は、正座しているミツザネの前に葛籠つづらを置いた。

 中には報酬として金貨が詰まっている。

 ミツザネは深く頭を下げうやうやしく受け取りながらも、「でっへっへ」と笑いをこぼした。


「ほな安倍様、俺は……某はそろそろ故郷の淡路に帰りまする。まこと貴重な経験をさせて頂きかたじけのうござりまする」


 もう一度しっかり礼をして立ち上がり、部屋から出ようと障子に手をかける。

 しかし、白髪の老人――琉衣絵が「待ちなさいミツザネ」と引き留めた。


「どうして狐が君を恐れていたのかは分からない。だが君のその不思議な力に、わしは大いに興味があるのだよ」

「いやあ……多分、狐は誰かと人違いしたんちゃうかなあ」

「たとえ人違いだとしてもだよ。強大な精霊にそう思わせるだけの『何か』を、君は持っているという事だ」


 琉衣衛は次に、泰成の顔を見る。


「宮中を荒らす狐はいなくなった。だが原因を断とうとも、一度沸いた不穏な流れはもう消せぬ。これからは律令社会も幕を閉じるやもしれないな。太古の時代、武力の時代へと逆戻り……貴族相手の陰陽師家業もそろそろ終わりやもしれぬぞ、泰成」

「なれば我々安倍一族、それに九蘭一族は、これから武士にでも仕えるのでしょうか?」

「さあな。まあ、それはその時に考えよう」


 そして老人は腰を上げ、障子の前で立ちすくんだままのミツザネへと近づいた。


「武の世となれば、ミツザネにも立身出世の道が見えてくるだろうな」

「出世て……田舎武士の俺が?」


 琉衣衛の思わぬ言葉に、ミツザネは口をだらりと開け放った。


 そのような考え、今まで考えもしなかった……わけでもないが、自分には無縁だと思っていた。

 国では、先祖代々続く役職を与えられている。

 生まれつき決まった人生を辿るだけ。そこには出世も失路も無い。


「君には、名字なあざなが無かっただろう?」

「そ、そうですな。俺の国ではもっとお偉い人しか名字を名乗れんので……特に故郷の真奥まおく村では、誰も名字なんてモンは」

「ならばその『真奥』を、今後君の名字としたまえ」

「ひょえっ!?」


 驚愕しているミツザネに、老人は更に言葉をかける。


「ところで、わしにはが何百人もいてね。泰成たち安倍一族もその一員というわけだが」

「何百!? お、お盛んやん……ですね」

「それだけ孫がいると、中には良い歳の娘もいるのだよ」


 九蘭琉衣絵は人懐こい笑みを浮かべ、ミツザネの肩を軽く叩いた。


「どうだね、わしの孫を嫁に貰ってくれないか?」

「な、なんやてええ!?」


 ミツザネは老人の顔を見、次に泰成の顔を見る。

 すると細い目をした陰陽師は、


「これからは親戚ですね」


 と、語尾にハートマークを付けながら微笑んだ。




 ◇




 それから、百年の時が経った。


 キューちゃんが朝廷に仕掛けた罠は、本人不在も関係無く動作した。

 玉藻は九尾に選ばれるだけあって、強かな女性であったらしい。前天皇を無理矢理退位させ、己が産んだまだ三歳の息子を天皇に即位させてしまった。

 魅了チャームが解けたというのに、キューちゃんの画策通り動いていたのである。


 そこから朝廷内が二分し、対立が始まった。

 その争いに武士が担ぎ出される。

 結果、武士の発言力が肥大化する。


 平氏と源氏の台頭、そして争い。

 源氏の勝利。

 新しい武士の世へ。


 仔細は違う部分があれど、概ねキューちゃんが描いた図の通りになっていた。



 そして、そのキューちゃんは……


「ぷっはああああ! 死ぬかと思ったアル! 死ぬかと思ったアル!」


 生きていた。


 溶け切る寸前に体をノミよりも小さくし、陰陽師達に見つからないよう、命からがら逃げだしていたのである。

 ただ身体の損傷が激しく、動けるまでに百年もかかってしまった。


 本体である狐の姿では目立ってしまうため、美女の姿に化ける。


「さっそく都に帰って、裏切り者のミツザネを捕まえて折檻アル!」


 別にミツザネは仲間というわけでも無かったし、裏切ったわけでもないのだが。しかし何となく気が済まないので、とにかくあの田舎武士に会いに行こうと考えたのだ。

 とは言えまだ無理は出来ぬ。のんびりと歩いて、平安京へ向かう事にした。


 その道中、懐かしい顔に出会う。


「おお狐よ。やっと眠りから覚めたんかのう」

「アイヤ、ぬらりひょんの爺さん。久しぶりアルな」


 後ろ髪の長い青年。大精霊ぬらりひょんだ。

 二人は近くにある団子屋に入った。

 武士の世になり街道整備が盛んになった事で、このような出店がぽつりぽつりと増えだしていた。


「しかしお前さんの着眼は凄いのう。今や、本当に武士社会が実現しておるぞ」

「武士の世に? なるほど、そうだったんアルか……マア我は単純な小鬼や阿呆天狗とかと違って、頭良いからナ!」


 腰に手を当て胸を反らし、大威張りするキューちゃん。

 ぬらりひょんは苦笑する。


「確かにくなど・・・の奴は単純だからのう。五、六十年程前にも、ちょいとおだてられただけで人間相手に鞍馬山で剣術を教えたりしてたのう」


 そう言って、からからと笑い出した。


「あの阿呆天狗、ニンゲン嫌いって言ってた気がするアルが」

「美少年は別なんだと」

「……そういう趣味アレだったんアルか」

「いや、そういうアレじゃなくて。ただその人間が非常に良い子だったので、これからは人間も美少年だけは許そう……という心境になったらしいんだのう」

「それはもう、そういうアレって事アル……まあどうでもヨロシ」


 キューちゃんは改めてぬらりひょんの眼を見た。

 そして、眉を潜めながら尋ねる。


「おい爺さん、あの黒い霧出すヤツは何者アルか」

「うむ……」


 笑っていたぬらりひょんの表情も深刻な色に変わった。


毒霧翁どくぎりのおきな……もしくは毒霧翁どくぎりおう毒霧翁どくぎりおきな

「読み方なんてどうでも良いアル」

「いや、まあなんというかのう……わしもよく知らんのだ。ただ、あやつにはもう関わらん方が良いぞ」

「何ダヨ、なんか正体がハッキリしないアルな」


 しかし言われなくてもキューちゃんは、もうあの老人とは関わりたくないと思っている。

 深く呼吸をし、気を取り直した。


「マア良いアル。それより我は京の都に帰るアル。あのミツザネって男を、食ってやるネ」


 そう言ってキューちゃんは小石を銭に変化させ団子の料金を用意し、再び京へ向かおうと立ち上がった。

 しかし、ぬらりひょんが慌てて引き留める。


「待て待て、なんか話が食い違っておるのう。お前さん、自分が百年以上寝ておった事に気付いていないのか?」

「気付いてるアル。数えてたもん」

「ならば、ミツザネが既に死んで墓に入っておる事も分かるだろう?」

「…………えっ?」


 キューちゃんは少々間抜けな声を出した。

 その様子を見て、ぬらりひょんは溜息をつく。


「お前さん、何千年も生きてて知らんかったのかのう。人間というものは百年も生きられんのだ」

「えっ、えっ、えっ……?」


 深く考えた事は無かった。

 今まで人間の生き死には、いくさでしか見たことがなかったのだ。


「わっ、わっ……わっ、我…………」

「とにかく、食い殺すのはもう無理だのう。ミツザネという武士は、淡路から鎌倉に引っ越しておった。もし墓参りなり骨を食うなりするのなら、鎌倉に行く事だのう」


 キューちゃんは、今更墓参りなどする気にはなれなかった。

 ただ、何故か落ち込んでいる自分に気付く。


 チェルトに惚れたカルドゥースの心境……とは、違うだろう。別に人間に恋をしたわけではない。

 それとは違う、よく分からない喪失感がある。


 思えば魅了チャーム無しで一応・・仲良くなった人間は、ミツザネが初めてだった。


「……我、とりあえずこのまま京に帰るアル」

「そうか。しかしこれからも人間の町で生きて行く気なら、ちっとは馴染む努力をせんとのう」

「馴染む、アルか……」


 キューちゃんは辺りを見回した。

 ここは街道。

 商人達が、わいわいがやがやと会話しながら歩いている。


「そうアルな。手始めに都の言葉遣いでも覚えるアル……どす。いや、どすえ?」


 京の人々の喋り方を思い出しながら、京言葉を口に出してみるキューちゃん。

 ぬらりひょんは「いや、もっと大局的な意味で言ったのだがのう」と小さく肩をすくめた。


「……まあでも、そういう細かい所も大切かもしれんがのう」

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