彼の弱さ

「おはよ〜」


私はいつものように、彼の布団に潜り込み、彼が目を覚ました物音で起きた。


「あぁ・・おはよ」


朝の彼のテンションはかなり低い。


ただ今日の彼は、いつもよりも輪をかけてテンション・・というよりも私に対して素っ気なく感じた。


「それじゃ俺、着替えるから」


「う、うん・・・」


やっぱり最近の彼はおかしい。


何だか私への反応も、出会った当初よりも冷たくはなくなったが、今の彼からは興味というものが無くなっている。


私は自分の部屋に戻ると、頭を悩ませた。


何か気に触るような事言ったっけ?基本的には優しいし、何よりも彼って顔に出ないんだよね・・・


でも思い当たる節がないとも言えない。


この前の演奏会だ。


私のせいで嫌いになったピアノの演奏会に招待する事をそもそも悩んでいたが、彼には今の私を見て欲しかった。


それでも彼は来てくれたが、演奏会の途中で帰ってしまったことも知っている。


それが原因なんだろうな・・・


私は自分のしたことに後悔した。


「謝らなきゃ・・・だよね」


私はそう決めると、手早く着替えを済ませ食卓に向かった。


「やっと来たか。すまないが今日は1人で食べてくれ」


「え?なんで?」


「これから少し出掛けるから」


「そうなんだ・・・気を付けてね」


露骨に避けられているわけでは無さそうだが、謝るタイミングを逃してしまった。


夕飯の時にでも謝ればいいか、そう思って私もご飯を食べ終わり、レッスンに行った。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「・・・遅いなぁ」


いつも私の方が先には帰ってくるのだが、今日に関しては明らかに遅い。


メールも送ってみたが、返信も一方に返ってこない。


我慢を切らした私は、ついに千咲さんへ連絡してみることにした。


「もしもし千咲さん。今って時間ありますか?」


「その声は凛ちゃんだね。うん、少しだったら時間あるよ」


「彼ってまだ塾にいるんですか?」


「え?今日は彼、お休みだよ」


「え?」


「え?」


私の頬を嫌な汗が伝った。


「もしかして家に帰ってきてないの?」


「はい・・・メールも返ってこなくて。それに朝から様子が変で・・」


「何か置き手紙とか口頭で聞いてない?」


「口頭では何も。置き手紙は・・・」


私は千咲さんと話しながら、彼の部屋に入った。


すると彼の机に、塾での資料や大学での資料以外にルーズリーフが1枚置いてあることに気づいた。


凛へ

いきなりですが、しばらく家を開けます。

家事などもお願いします。

ご飯などは冷蔵庫にお金が入っているので、それを使ってください。

連絡は難しいので、困ったことがあれば環か千咲さんを頼ってください。

いつ帰ってくるかは分かりません。


「これって・・・」


私は手紙を読み終わると、そんな声を漏らしてしまった。


「なにか見つかったの?」


「置き手紙があって・・・えっと、しばらく家を開けるって書いてあります。それに連絡が取れないって」


「えぇ!?どういう事なの!?」


「そ、そんなのこっちが聞きたいですよ!」


何が起きているのか、彼が一体何を考えているのか、そんな事を考えると頭がパニックになってくる。


「でも連絡が取れないなら、どうしようも出来ないね」


「でも私・・・」


「分かるよ、心配だよね。でも今の状況のままなら何も出来ない」


かといって、このまま彼の帰りを待つなんて出来ない。


彼は少しでも帰りが遅くなればメールをしてくるような人だ。


そんな彼が1番人に迷惑をかけるような事を進んでするとは思えない。


「・・・凛ちゃん何か原因知ってるよね?」


「えっと・・・はい」


私は自分の演奏会へ彼を呼んだこと、そして途中で帰ってしまったことを話した。


「色々と腑に落ちないところはあるけど、なら行く場所は簡単ね」


「本当ですか!?教えてください!」


「私も一言言いたいし。でも凛ちゃんは覚悟しないとだよ?」


「え・・・」


「彼が距離を置くために一番最適な場所・・・桜岡家、彼の家よ」








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