77 小説を書くのに必要な土地を耕す。

 そういえば、僕は小説家を目指しています。

 訓練として以前、小説の模写をしていました。

 小説の文章を一言一句すべてパソコンに打ち込んでいく、という聞く人が聞けば苦行と言われそうな訓練です。

 僕個人の話をすれば、模写は性に合っていたのでしょう。

 PCでアニメを横で流しながら、カタカタと手を動かし続けるのは楽しかったですし、普通に読むのとテキストとして手で読んでいくのは物語の印象が違って面白かったです。

 模写したタイトルは以下になります。


 村上春樹の「ノルウェイの森 下」「1973年のピンボール」。

 吉行淳之介「夕暮れまで」「驟雨」。

 池澤夏樹「スティル・ライフ」「ヤー・チャイカ」

 川上弘美「ニシノユキヒコの恋と冒険」

 山田詠美「ぼくは勉強ができない」


 なぜか「ノルウェイの森」は下だけなんですよね。

 上をしなかったのは楽しみ後にとっておく、みたいな気持ちだったのでしょう。

 読み込んでいる量と言う意味で、模写しやすかったのは圧倒的に村上春樹でした。一番しんどかったのは池澤夏樹と山田詠美あたりだったと記憶しています。

 川上弘美の「ニシノユキヒコの恋と冒険」は、自分でも不思議ですが、どうして僕は女性に生まれなかったんだろう? と言う気持ちになりました。

 吉行淳之介は模写した後、しばらくの間は吉行文体になっていました。


 という訳で作品や、模写する人間の読書歴なんかも関係してきますが、普通の読書とは違った感覚が味わえるので個人的に模写はオススメしています。時間は掛かる上に、肌に合わない文体の場合は頭に入ってこなくなります。

 けれど、小説を書く、文章を産み出すという行為はやっぱり大変なんだな、と実感できますし、頭ではなく手に小説の文体を叩き込めるのも一つの利点です。指に叩き込まれた文体はピアノの練習のように三日離れれば、自然と剥がれ落ちていくようなものではありますが。

 その中で剥がれ落ちないものもあります。

 吉行淳之介の言葉を一部抜粋したいと思います。


 ――言うまでもないことだろうが、文章というのはそれだけが宙に浮いて存在しているわけではなく、内容があっての文章である。地面の下に根があって、茎が出て、それから花が咲くようなものである。その花を文章にたとえれば、根と茎の問題が片付かなくては、花は存在できないわけである。


 吉行淳之介はその後に、根と茎以前に地面にしっかりと養分があるのか、という問題もあると書きます。

 文章を書く為には、自分の中に豊かな土地を耕す必要があります。ちなみに村上春樹の場合は井戸を掘るイメージで、地面の何処をどのように掘れば、優れた文章が出てくるか時間をかけて探す必要がある、と書きます。

 が、今回は吉行淳之介のイメージで続けたいと思います。


 良い文章を書く為に必要な土地作り、それは読書であり体験、僕自身が過ごす日々と言い換えても良いと感じました。

 僕の過ごす日常が小説を書く為の土地作りに直結する。

 まるでゲームみたいだ、と言うのが僕の最初の感想でした。

 自分の中にある、誰にも見られない土地に与える肥料。


 その肥料の一つに小説の模写は確実にありましたし、読書の幅を広げたのも、そういう考えからでした。土地を豊かに耕す為に同じ肥料を繰り返し与えるより、あらゆる肥料を与えてみた方が良い、と僕は思っています。

 土地の養分が豊かになってきたら、小説を書いてみます。

 読めるものができれば万々歳。

 最後まで書けなければ養分が足りなかったのか、違う肥料が必要なのかと頭を捻ります。その上で、次なる小説や映画をせっせと摂取していきます。

 僕が今までしてきたことをまとめれば、結局はこういうことです。


 そして、エッセイを書いていると僕の中の土地がどれだけの広さで、どれだけの養分を蓄えているのかを測ることができます。広さには偏りがありますし、養分も充分に染み渡っているとは言い難いですが、それでもそろそろ何か植えてみようと思えるようになりました。


 ※今回で毎日更新は一端終了させていただきます。毎日更新にお付き合いしていただいていた方々、本当にありがとうございました。

 来週からは、水曜日の18時更新に戻りますので、よろしくお願い致します。

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