第14話 アスカ・ユアサとの出会い(入学式)

 赤崎さんから部屋を譲ってもらって1週間ほどが過ぎ、4月7日を迎えた。今日は川永学園の入学式だ。僕はおニューの学生服を着用して入学会場へと向かった。会場は見るからに大きい講堂であった。二千人は収容できる規模だろう。


 しかし、初めて来たにも関わらず、僕には既視感があった。それもそのはず、ここは川永学園が研究成果等をマスコミに発表するときによく使用する場なのだ。テレビ等でもこの講堂はよく映されていた。

 

 特にステージの部分には壁面に大きく川永学園のマークが掲げられており、印象に残っていた。星マークの中に丸が、さらにその丸の中に川永の文字が入っている。

 特別おしゃれなマークではないのだが、川永学園の研究報道があるたびに映るので、僕の中ではおなじみのマークになっていた。だからこそ、生でこのマークを見た時は自分が川永学園の生徒になったのだと改めて実感することができた。

 

 講堂内には生徒用のパイプ椅子、来賓席の机、保護者席、マスコミ席が設置されていた。マスコミ席には既にカメラマンや記者が大勢並んでいた。生徒席にはまばらにしか人が座っておらず、少し早く来てしまったかな、と内心思いながら自分の席に付いた。席順は五十音順らしく、僕は一番右側の列の前の方だった。十分ほどすると徐々に人が埋まってきて、入学式開始の十五分前にはほぼ席は埋まっていた。

 

 僕は新入生のなかに僕と同じくらいの歳の生徒がいないか探した。この前赤崎さんから話された利根川君を見つけるためだ。しかし、それらしい人影は見当たらない。入学者数は合計で六百人程度、その中から見つけ出すのは困難だった。


 結局、僕が利根川君を見つけられないまま、入学式が始まった。入学式は良くも悪くも普通だった。中学の時の入学式と同じで、来賓の挨拶やら、学長の挨拶やらが行われた。特に面白い話をするでもなく、川永学園に選ばれた生徒として恥ずかしくない知識、教養を身につけ、社会に貢献してほしいというような内容だ。こういう偉い人の話は川永学園といえども他の学校と大差がないんだろうなあと感じた。


 中学の入学式と違うのは生徒や保護者の数が多いというのとマスコミが取材に来ていることくらいだろうか……。そんなことを考えながら話を聞いていると、新入生の首席代表挨拶が行われ始めた。ステージに一人の少女が上がってい行く。壇上の演台に立ち、少女がステージ下に顔を向ける。


「えっ?」


 僕は驚きのあまり、思わず声を出してしまった。その少女は僕が良く知る少女だったからだ。間違いないあの子は……僕の疑念に答えるかのように首席代表の名前がアナウンスされる。


「新入生代表 アスカ・ユアサ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る