第13話 赤崎さんからのお願い
「さて、天野君、この部屋の鍵を渡しておくわ」
「ありがとうございます。えーと……、僕はどちら側の机とベッドを使えば良いんでしょうか?」
「好きに使って良いわよ。私、暫くこの部屋は使わないから」
「え、それじゃあ赤崎さんはどこで寝泊まりするんですか?」
「近くのホテルを使用するわ」
「ええ……」
僕のせいで赤崎さんがこの部屋から出ていくなんて……。申し訳ないことをしてしまっている。そんな僕の困った表情を見て、赤崎さんが口を開いた。
「何? あんた、ちょっと残念そうな顔をしてるわね。まさか私と一緒に暮らせるとか考えてたんじゃないでしょうね? とんだむっつり野郎ね」
「ちょ、違いますよ! これは……」
「あはは。冗談よ」
僕が弁明しようとする間もなく、赤崎さんは答える。
「私のことなら気にする必要ないわよ。さっき栗江と話してるの聞いたでしょ? 私、一応名家のお嬢様だから。お金には困ってないの。部屋に空きが出来たら帰ってくるわ」
「そうですか…… なら遠慮なく使わせてもらいますね。さすがに栗江と一緒は嫌なので……」
「ホントに気にしなくていいわよ。ああ、寮母さんには私から説明しとくから。荷物の整理しといてくれていいわよ」
「ありがとうございます! このお礼は必ずなにかの形で……」
僕は赤崎さんに頭を下げてお礼した。あのまま栗江のそばにいたら実験動物扱いだったのだ。恩返しは必ずしなくてはいけない。
「お礼かぁ。それなら一つお願いがあるわ」
「なんですか?」
「今年の新入生の中に利根川伸也っていう私達と同い年の子が入ってくるの。そいつと仲良くしてあげて。悪いやつじゃないから」
「わかりました!」
僕は二つ返事で快諾した。そんなことで良いならいくらでもやる。むしろ同い年の新入生がいるなら仲良くしておきたい。
「それじゃ、私は帰るわね。また、学園であった時は声かけてよ。あと、敬語じゃなくていいわよ。同い年だし」
そういうと、赤崎さんは去っていった。
……赤崎さんは名家の出身でお金持ちらしいけど……なんでわざわざ二人部屋の安い寮に住んでるんだろう……?
少々疑問に思ったが、荷物の整理を早く終わらせてしまおう。寮の夕食時間がすぐそこまで迫っていた。栗江は食事を寮の食堂で摂らない。この一週間食事は癒しの時間だった。いや、これからも癒しの時間だ。ご飯を食べなければ頭も働かない。食事は最優先事項なのだ。
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