1-05 げぇむぼぉい


今、ジャパリバスは最初の目的地のゆきやまちほーに向かっている。


窓から外を眺めてみると自然にあふれた景色が広がっていて、きれいだ。バスは電池で動いているのでガスも出ないから環境にも優しい。本当にハイテクなバスだ。


こんなものを作れるならきっと元々僕がいたであろう場所にはもっと便利なものがあってとても暮らしやすかったと思う。はてさて、なんでジャパリパークに行こうと思ったのか。


何かの拍子に思い出せないかな?



「コカムイさん、ゆきやまちほーが見えてきましたよ!」


 その声を聞き、バスの進む方向を見ると、真っ白な雪山が見えた。この山の上に温泉があるみたいだ。


 そしてバスは雪山を登っていく。少しスピードを落として、雪にタイヤがやられないように慎重に運転している。

 かばんちゃんが運転しているように見えるけど、全部腕についたラッキービー…長いからボスでいいや。ボスがバスとつながって運転している。



「寒くなってきたね、あとどれくらいで着く?」


「だいたい15分くらいだよ」


「まだかかりそうですね」 


「うう…やっぱり寒いのは慣れないや」


「サバンナは暖かいから、こういうところは苦手なんだね」



何か羽織るものがあればよかったけど、持ってなかったしロッジにもなかった。

これだけは我慢だ……



「雪山にはどんなフレンズがいるの?」


「雪山には、キタキツネやギンギツネ、カピバラとかだね。寒さに強いフレンズがほとんどだよ」


「まあ、当たり前だよね……」



雪山は綺麗な景色が一面に広がっているけど、綺麗な景色で寒さはしのげない。

というかかばんちゃんは半袖なのに寒そうにするしぐさがない。


そうだ、初めて会うフレンズにはあいさつしなきゃいけないし、いつまでも特徴がないあいさつじゃダメな気がする。

何かいい感じに印象に残るもの……何か無いかな……


「到着だよ」


その声で我に返った。

どうやら考えに耽るどころかぼーっとしていたみたいだ。



「ここに温泉があるんだ…」


見たところ普通の温泉宿って感じだ。バスの音を聞きつけたのか、中からフレンズが出てきた。灰色の長い髪と紺色の服を着ている。首元の大きい蝶ネクタイと黒い普通のネクタイ……両方つけてるのは珍しい。



「……あら? かばんにサーバルじゃない。それと……」


「あ、はじめまして、コカムイでーす」


「え、ええ……はじめまして。私はギンギツネよ。よろしくね」



いきなり軽い感じの自己紹介はよくないかも、ギンギツネは少し戸惑ってるみたいだし。やっぱり普通が一番なのかな?



そんなこんなでとりあえず入ることにした。中に入るとギンギツネに似たオレンジの服のフレンズが意気消沈した様子でぺたりと座りこんでいた。



「キタキツネ、かばんたちが来たわよ」


「……そう」



気だるげな声でキタキツネと呼ばれたフレンズはそう返した。とりあえず自己紹介から入ってみよう。



「あ、はじめまして。コカムイです。今日はここにお世話になります」



んー……少し丁寧すぎたかも。フレンドリーな感じとうまく両立できたらカンペキ。


だとか考えているうちにキタキツネがゆっくりと顔を上げた。



「……もしかして、男の子?」


「え?……うん」



開口一番性別の確認をされるなんてびっくりだ。でもフレンズは女の子しかいないから珍しく映ったのかもしれないね。


「じゃあ……あるんだよね」


…………え、何が?


と考えているとキタキツネは立ち上がって手招きをした。まあついて行ってみるしかないか。


ふとギンギツネの方を見ると顔を赤くしているような気がした。




「……これ、見て」



指さす方を見てみると何かの筐体が倒れていた。



「男の子でしょ? 力、あるんだよね」


なるほど、力仕事の話か。ないことはないけど一人でできるかと言われると怪しい。


「これ、重そうだからかばんちゃんとサーバルにも手伝ってもらえば楽にできるんじゃない?」


「わかった。ギンギツネ、ギンギツネも手伝って」


かばんちゃんとサーバルを呼んで、五人で機械を立てることになった。



「そういえばこれって何?」


「げぇむだよ」


「へぇ、ジャパリパークにもゲームってあるんだ……」


「よーし! がんばるぞー!」



五人がかりともなると簡単にゲーム機は立ち上がった。ついでに電源を付けてみるとゲームも立ち上がった。



「これでまたげぇむできる。ありがとね」


「どうしてこんな重い物が倒れたの?」


「わかんない。気付いたら倒れてた」


少なくとも倒れたら音くらいすると思う。キタキツネたちがいないときのことだったのかな?


「ちょっと来なさい」


「うわわっ!?」



ギンギツネに少し離れたところまで引っ張られた。



「キタキツネのさっきの言葉……あれどういう意味なの?」


「キタキツネに直接聞いた方が……」


「聞けないからあなたに聞いてるのよ!」



そういうギンギツネの顔は少し赤かった。どうやらさっきの「じゃあ……あるんだよね」という発言についてらしい。



「ああ、それは”男の子なら力あるよね”って意味だよ」


「そ、そそうだったのね……」


合点がいったみたいでよかった。


「キタキツネ! ご、誤解しやすい言い方はやめるのよ!」



ギンギツネは顔がさっきより赤くなっていたので、

「へんなギンギツネ……」

とキタキツネがつぶやいていた。



それにしても、このゲームが気になる。



「そうだ、ゲームやってみてもいいかな?」


「うん、いいよ」



ゲームスタート!



内容は格闘ゲームだ。一応あらすじはあるみたいで、


『ジャパリまんを奪っていくセルリアンが現れた!撃退してジャパリまんを取り返そう!』


 という内容が張ってある紙に書いてあった。格闘ゲームならもっとしっくりくる設があるはずだけど、そこまで気が回らなかったのかな?

 出てくる相手もセルリアンって感じじゃない、と思ったら紙は別のゲームのものだった。恥ずかしい話である。



でもゲーム自体は面白くてついつい夢中に……ってあ!待った!ピンチだ!落ち着いて……ここをこう避けて…相手が空中にいる間に………




「……すっかり夢中ね。もう3回目じゃないかしら」


「……仲良くなれそう」


結局、かなりの時間をゲームに費やしてしまった。


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