3章 第3話 vsギオ・キンソウ 再び
ギオとの望んでいない再会の翌日。
何とかテストを乗り越え、迎えた放課後。
ルトはというと、ルティアと共に学園内に複数ある闘技場の中で、それなりの大きさの所へと向かっていた。
というのも、本日学園を訪れた際に、掲示板を確認した所、ギオとの決闘の会場と日時が記してあったのである。
1対1で闘うのに、何故ここまで大きな闘技場を? と正直疑問を抱かなくも無かったが、学園側に申請し、受理されているという事は、正式な決闘として学園に認められたという事だ。
つまり、万が一にも不正行為を働くような事はないと言えるだろう。
「……だからこそ、余計にわからないな」
ルトがポツリと呟くと、同調するようにルティアが頷く。
「何か意図があるのでしょうか。……と言っても、各闘技場の差異なんて、それこそ観客席の数くらいですし……」
「うーん」
小さい闘技場だって勿論観客席はある。
それこそ学園全体に影響があるような、そんな意味のある決闘以外ならば、十分事足りる程度には。
確かに学園のアイドルとも言えるルティアが関係し、良くも悪くも衆目を集めるルトが決闘を行うという意味では、注目のカードであると言える。
しかし、例えそんな2人が関わっている決闘であっても、テスト期間であるこの時期に、200人近く収容できる闘技場が埋まるかと言われれば答えは否だ。
だからこそ、ルトとルティアはギオの選択を理解できず、首を傾げているのである。
と。結局理解できないまま2人は並び歩を進め、遂に闘技場へと到着した。
到着してすぐに中へと入っていく。
入口を通り、控え室を通り、そして薄暗いトンネルの様な道を進み、遂に視界がパッと開けると……そこには年季の入った、しかし十分に整備された会場と──その会場を埋め尽くす程の観客の姿があった。
そんな超満員と言える観客を見回しながら、ルトは唖然とした顔で、
「えぇ……まさかこれ全員、決闘申し込んできた人達の仲間? ……なんかの組織なの?」
「……す、凄い数ですわ」
想定外の人数に圧倒されるルティア。
まぁ、わからなくもない。客席には学園生が少なくとも200人は集まっている。
そして観客の雰囲気からして、恐らくは、その大半もしくは全員がギオ達の仲間なのだ。
いつの間にか出来上がっていた大きなコミュニティ。加えてそれらがルトとは敵対関係にあると言えるのである。
この現状に、圧倒され不安に思うのも何らおかしな事ではないだろう。
しかし……そんな状況であるというのに、当事者であるルトは至って冷静であった。
確かに、ハデスの影響で恐怖を感じなくなったから、というのも理由にあるが、何よりもルトには自信があったのだ。
……ギオには絶対に負けず、この謎のコミュニティを退けられるという自信が。
だからこそ、ルトは勝気な、しかし驕りを感じさせない表情のまま、小さく微笑むと、
「そんな不安そうな顔しないで。僕は大丈夫だから」
「……はい。あの、ルトさん……お気をつけて」
自身の事ならばあれだけ自信満々なルティアも、他人の、もっと言えばルトの事となればこの有様である。
信用してはいるが、どうしても心配……という事だろうか。
まるで母親のような目線である。
「うん、行ってくるね」
言って、ルトは一歩一歩と歩を進め、会場の中心で仁王立ちするギオの目前へと移動した。
「よォ、よくきたなァ無能。怖気付いて来ないと思ったぜ?」
ギオは口角を吊り上げると、自身の負けなど100%あり得ないとでも言いたげに、侮蔑の表情を作る。
対しルトは、落ち着いた声音で、
「そういう訳にはいかないさ。今回の闘いはどうしても譲れないものだからね」
なにせ、ルティアの側に居られるかどうかが懸かっているのである。
「ハッ! その割には今まで何人もの決闘を断ってきたみてェじゃねーか!」
「そりゃ、避けられるのなら、避けるさ。ただ今回はどうにも組織的なもののようだからね。ここら辺でケリをつけておこうと思っただけだよ」
「ケリをつける……だァ? なら残念だったな無能!これからお前に起こるのは、一方的な蹂躙と、今日を境にルティア様と話をする事も叶わなくなるという事実だけだ!」
「今までとは違って、僕には死神の力がある」
「関係ねェ! 死神だろうが何だろうが、無能は無能だろ! なら、結果は既に決まってるようなもんじゃねェか!」
「……相変わらずだなぁ」
ギオの以前と変わらない物言いに、ルトは呆れ半分に小さく声を上げる。
「あァ? 何か言ったかァ?」
「いいや、何も。……それよりも、もう始まるみたいだ」
これ以上追及されるのは面倒だったのと、決闘が起こった際に、審判を担当する事になっている学園の関係者が、位置に着くようにと指示を出していた為、ルトは話題を逸らす。
「ハハッ! やっとかよ!」
早くルトを倒したくて堪らないと言いたげに、力強く戦闘開始位置へと移動するギオ。
そんなギオとは裏腹に、ルトは静まり返った水面のように静寂を纏いゆったりと歩いて行く。
そして歩きながら、ルトは脳内で会話を始めた。
『ハデス、纏術は……』
『前回の侵食により、我とお主は更に一体となった。よって、
『うん、喜んで良いのかわからないなそれ……』
纏えるようになったのは朗報であるが、それが侵食によるものだとわかれば話は別だ。
……まぁ、使えるというのなら、勿論喜んで使用するのだが。
とは言え、ハデスの言葉通りならば、使用時間は限られている為、ルトはひとまず纏わず、代わりに
「おい、無能。何故、纏わねェ! ……まさか、俺相手ならそんなもの必要無いとでも言うんじゃ無いだろうなァ?」
怒気を含んだギオの問いに、ルトは言葉を返す事はなく、代わりに小さな笑みを向けた。
……まるで、肯定である事を示す様に。
「……ッ! ブッ殺す!
ルトの反応を受け、堪忍袋の緒が切れたのだろう。
ギオは唾を撒き散らしながら、荒々しい声音で詠唱を口にした。
瞬間、呼応するように手の甲の紋章が輝き、ギオの身体を甲冑の様なモノが包んでいく。
そこには
「それでは──始めてください」
審判による開始の合図があり……決闘が始まった。
刹那、ギオが動く。
「早速終わらせてやるよ! 食らいやがれ! ──
言葉と共にギオが紋章の描かれた右拳を地へと叩きつける。
瞬間、ルトの足元が少し盛り上がり……数瞬の後、爆風が空に向け巻き上がった。
ルトはそれを一度のステップで避ける。爆風が掠めるかどうかギリギリの距離であったが、ルトの表情に焦りの色は一切見えない。
しかし、ギオには違って映ったようで、
「何だ何だ? 随分とギリギリじゃねェか! ──
嘲罵を口にした後、追い討ちをかけるかの如く再び地へと拳を叩きつける。
そしてそれをルトは再度紙一重で避けた。
と。その後もギオが剛単衝を放ち、ルトがギリギリで躱しを繰り返している中で、ルトは内心で一つ確信を得ていた。
……ギオの戦闘スタイルに変化は見られず、目立った成長も見受けられない。ただただ猪突猛進、その一辺倒である、と。
ならば──
「クソッ! 運の良い野郎だなァ! ……まぁ良い。どうせお前はこれで終わりなんだからなァ! ……いくぜ! 剛咲──」
攻撃が当たらない事に苛々が募ったのか、ギオは早めに決闘を終わらせようと、前回ルトに土を付けた剛咲衝を放とうとし──
それよりも先に、ルトが動く。
「いくよ──
瞬間、身体を黒い靄が覆い……靄が霧散するとそこには黒いローブに身を包んだルトの姿が。
ルトは纏うとすぐに、
刹那、死狩を覆っていた黒い靄が一直線にギオの元へと飛んでいった。
遠距離攻撃を予想していなかったのか、それとも驕りにより油断をしたのか。
ルトが放った黒い靄はギオの顔面へと直撃。
その衝撃から、ギオの身体が仰反る。
そのうちに接近するルト。
対しギオは、流石の防御力というべきか、一切ダメージを負っていない様子で、
「──ッ! ……ハッ! 効かねェなァ! そんなこうげ──ッ」
ルトを馬鹿にしようとし──直後、彼の右腹部を衝撃が襲った。
「──
ギオの顔面に黒い靄が直撃し、彼の視界が覆われた一瞬で、ルトが跳兎を放ったのである。
「──ッ」
想定外の攻撃に、ギオがバランスを崩す。
その隙を、当然ルトは見逃さない。
ルトは死狩を構えたまま、ギオに肉迫。
そしてバランスを崩したギオの、強固な鎧の最も弱い部分、即ち、関節部へと死狩を滑らせ──ギオに許容以上のダメージが入ったのだろう、2人の周囲を覆っていた膜が割れる。
──ルトの勝利である。
「ルトさん……!」
審判による判定の後、ほっとした笑顔で駆け寄ってくるルティア。
片手を上げ寄ってくる彼女へ、ルトも右手を上げ……パチンッと音の良いハイタッチをした。
一方、敗北となったギオは、
「クソッ! クソがッ……!」
項垂れ、屈辱と悲哀のこもった表情で、地に拳を叩きつける。
そんなギオの元へと、ゆったりとした足取りで歩み寄る1人の少年。
その少年からは、まるで貴族のような高貴さが感じられ──
「……あれ、あの人は」
まさかの人物の登場にルトは目を見開き、
「……ユリウスさん? どうして……?」
ルティアは、先日対戦した《勇者》ユリウス・ルービバッハの姿がここにある事に小さく首を傾げた。
そんな2人の視線を受けながら、しかしユリウスは悠然とした態度でギオの前に立つ。
そして、小さく息を吸った後、どこか怒りを感じさせる表情で、
「……一般会員でありながら、お前はやってはならない事をした。……ギオ・キンソウ。今日この日を持って──お前をルティアファンクラブから除名とする」
「……なっ!?」
ギオが悲痛な表情で顔を上げる。
「二度と我らの前に現れるな!」
「く、クッソォォォォォォッ!!」
地に突っ伏しながら、ギオは叫ぶ。
そのやり取りを目にしながら、
「……ル、ルティア……ファンクラブ?」
まさかの組織名に、ルティアは信じられないとでも言いたげに、声を上げ、
「もしかして、ここにいる全員が……?」
ルトは組織のあまりの巨大さに戦々恐々とした。
ある意味では、あまりにも恐ろしい組織の登場。
そしてその組織のトップが恐らくユリウスであるという事実に、ルトとルティアは、何となく先行きが不安になり……揃って身震いするのであった。
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やはり上手い文章が書けない……。
読み難かったら、申し訳ないです。
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