第4話 談話
校舎へと向かうその道中、イグザからある程度離れた辺りで、ルトとアロンはゆっくりと歩きながら談笑をしていた。
他愛もない話から、真面目な話まで、とにかく話した。
互いに、話し相手がいるという状況に舞い上がり、喜びを噛み締めながら、ひたすらに。
と、そんなこんなで歩く事10分。
ここで景色が大きく変わった。
学園へと続く大きな一本道。その両端には、等間隔で木々が植わっており、美しい深緑のアーチを形作っている。
青々とした空に、燦々と降り注ぐ日の光。
その下で長々と続く深緑のアーチ。
それらは、何とも言えない美しさをルト達の双眸へと伝えた。
「……いつ見ても、凄いね」
学園に入って何度思ったかわからないそれをぼーっとした表情で口にする。
「……あぁ。これ見てると、何だか俺まで凄い奴になったかのような、そんな気がしちまうよ」
実際、この学園に入学した段階で、ルトとアロンの二人は、ある程度の力を有している事になる。
しかし、それはあくまでも戦闘経験が少なかったり、そもそも戦闘に興味がないような一般人に比べればの話である。
学園内にはたまた学園外においても、戦闘経験の豊富な人間の中では、ルトやアロンは間違いなく下から数えた方が圧倒的に早いと言える程度の力をしか有していないのだ。
と、ぼーっとする事数十秒。
このままここで時間を使っては、1時限目の講義に間に合わなくなってしまう為、2人はすぐに動き出した。
「そういやさ……」
木漏れ日の当たる道を歩きながら、アロンが思いついたかのように、そう声を上げる。
「…………ん?」
つい先程会ったばかりだというのに、ルトからは既に緊張は見られない。
昔からの旧友と話しているかのように、ごく自然と反応を示した。
「今までルトと同じ講義って受けた事あったっけ?」
「うーん、多分ないと思うよ」
「あ、やっぱそうか」
「うん、まず僕実践系の講義一つもとってないからね」
「…………!? そうなの……って、ああ、そりゃそうか」
「そ。僕にあった講義が一つも無いからね」
アルデバード学園は単位制を採用している。つまり、卒業までの3年間で規定単位を超える事ができれば、卒業できるという訳だ。
また、必修科目というものが存在せず、全て選択科目となる。
なので、好きな科目を、好きな時間に取る事が許されているのだ。
基本、一般の生徒は理論系と実践系の講義を大凡半々で取る。
しかし、それはあくまでも魔術か纏術を使う事ができる一般の生徒の場合である。
そのどちらも使う事のできない、ルトのような《無能》は、当然受ける事のできる実践系の講義など一つも存在しない。
泣く泣く理論系の講義のみを受けるしか無いのである。
それでも、卒業後の進路に大きく影響するという事はない。
結局進路は、序列戦の結果の良し悪しで決まるからである。
要するに、全講義理論系だけしか取らずとも、序列戦の成績さえ良ければ良いのである。
……まぁ、ルトはそんな序列戦の結果が悲惨なのだが。
「後期は、講義が被ると良いな」
「うん、そうだね」
言って、二人は顔を合わせ笑った。
「……その前に、序列戦で1勝しなきゃならねーけどな」
「…………そうだね」
しかし、それもすぐに苦笑いに変わる。
そう、ルトとアロンの講義が重なる為には、まず次の序列戦で勝利しなければならないのである。
負ければ退学。そうなれば、同じ講義を受けるどころか、同じ学園に通うことすらできなくなるのだ。
現在どちらも5戦5敗。1勝を上げることが如何に難しいか、この結果からもよくわかる。
「頑張ろうね、序列戦」
「……おう」
2人の瞳はメラメラと燃えていた。
と、長々と続く道をひたすらに歩いていると、遂に道の分かれ目にたどり着いた。
一本は一直線に学園の本館へと、もう一本は学園の別館へと続いている。
「っと、俺こっちだ。ルトは──」
アロンが本館側を指差し、
「こっち、だね。だからここでひとまずお別れだ」
ルトが別館側を指差した。
「そうだな……」
ハハハとアロンが弱々しく笑う。しかしすぐに、ニッと明るい笑みを浮かべると、
「んじゃ、また明日な!」
元気にそう言い、バッと手を上げた。
「うん、また明日」
──また明日。
今まで何度も夢見て、しかし自分には縁が無いんだと考えていたこの言葉を、噛みしめるように口に出し、同様に手を上げる。
そしてコツンと握り拳をぶつけた。
その後、2人は手を振りすぐに別々の道を行った。
1人歩くルトは、何故か身体が軽くなったような気がして、いつもより若干早足で校舎へと歩く。
今日の講義は、何だかいつもよりも身が入りそうだと、漠然と思いながら。
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