ギルティガンナー
山田遼太郎
シーン1 ディスタンス(1)
[機内]
ワーオすげーやクレージー!
黒々とした空気がとぐろを巻いてるみたいで、なんて薄汚れた星だろう!
「お客様、お席にお着きくださいませ」
わかってるよオバサン! んな事よりもねぇ、俺はあそこに降りるんだ!
「ええ存じております。当機はこれより大気圏に突入いたしますので速やかにご着席いただいて」
ナンセンス! 冒険はもう始まってんのよ? これが落ち着いてられますかって!
ねぇ信じられる? あんたが話してる俺って、実は超有名人なんだぜ? 近い将来なるんだ! あの星で得るであろう体験を元にひと山当てて、超クレージーな映画監督にさ! 俺がなるのよ!
「そうなるためにもどうかご着席くださいませ。当機はとても激しく振動いたしますので、頭でも打ってそのミクロの脳ミソが耳の穴からこぼれてしまわれては、元も子もございませんからね?」
うんうん、ほんとだよね俺もそう思ってたよ。俺は天才だってね! いやァあそこを選んで正解だった! いちばん求めてる最高の画が呼んでるんだってインスピレーション働いたんだよね~!
「その耳の穴すら飾りなのですかお客様? あーもういいから座れってこのマザファッカーッ!」
感謝だよマジ心の底から神って人にね! 俺は確信したよ! いま目の前にある星に比べたら、地球なんか金玉みたいなモンだったって! もー最高! 一体どんなスリルとロマンスがあそこで待ってんだろうと思ったら心がふるえるれるれ?
『アテンションプリーズ。当機は間もなく……』
▽ ▽ ▽
[宇宙港のある街・バビロンの歓楽街]
おかしいな。足がフラフラする。
おまけに気持ち悪い。重力酔いするほどの長旅じゃあなかったような気がするんだけどもなあ。
ああそうだ、クソとろい職員どものせいだよ。荷物チェックくらいマシンに任せときゃいいのに規則だとかなんとか抜かして、わざわざ手作業でチマチマやるもんだから待ちくたびれちゃった。
ムカついたから俺の命より大事な8ミリカメラ構えて『こいつは銃さ。バーン!』ってしたら、発砲されたあげく、尋問と精神鑑定スキャンまで受けさせられた。ジョークもわかんないのかよ?
俺なんも悪くないよね?
ああ~、でもターミナル出られてホッとした。
人もまばらな真っ昼間の歓楽街に軒を並べる、今にも倒壊しそうな店の数々。見上げれば、空に漂うスモッグ。見下ろしたら、所構わず寝転がる浮浪者と舗装ガバカバで犬のクソまみれの歩道。
いいロケーションだよ。
何が起こってもおかしくない、ザワつく感じ。
さてと、さっそく撮影に入りたいとこだけど、その前に腹の虫を手懐けなきゃあいけないよな。ターミナルでもらったパンフレットを取り出す。『ようこそサドンデストピアへ!』と国際言語で記された表紙をめくり、『超重要注意事項』とかいうやたら文字の多いページを飛ばせば、すぐ、ターミナル周辺地図が載ってるとこに行き着く。よし、えーと、いちばん近い飯屋の住所は……
『ド~ミ~ソ~ド~』
いきなりのチャイムが、付近一帯に鳴り響く。地球のジャパーンステイツ出身の俺にとっては、ピンポンパンポーンって書く方が分かりやすい、二度と戻れない故郷を思い出す懐かしい音階だ。
『キリングタイム、間もなく開始いたしま~す。リミットは一時間。皆さん張り切ってどうぞ~』
あちこちの街頭にくくりつけられたスピーカーから、妙に呑気なバカっぽい子供の声が告げる。
次の瞬間、俺の後方に建っていたクッソボロいプレハブ小屋が、内からの炎と衝撃で吹っ飛ぶ。巻き起こる突風に煽られながらも、バラバラ撒き散らされる破片の雨を、俺は命からがら避ける。
地面の上に落ちた犬のクソにへばりつくみたく伏せながら、俺は見る。半壊した建物の前に立つ全長10メートルほどの、機械の巨人の姿をだ。無骨な多重甲殻装甲と、強化ナノチューブ脈打つ人工筋肉が織り成す半生体重機。腕と一体化したマシンランチャーの発射口は、まだ煙っている。
「えぇ……『メタルジャケット』? なんで?」
戦争してるなんてハナシ聞いてないんすけど。
『げっへぇ、ヤってやった! ヤってやったぜぇマルコスよぅ~! サリーによろしくなぁ~!』
そのメタルジャケットは人間の目に近いまん丸アイサイトを光らせて、下卑た声を吐き散らす。
「軍隊じゃない。テロリストだ!」
どのミリタリー雑誌でも見た事ない機体だし、もしかして装備とかも非正規なんじゃあないか?
『あ?』
げっ、こっち睨みやがった。
『ケビンじゃねぇかお前にも会いたかったぜ! イノセント様のお導きだぁオレァついてるぅ!』
は? 誰?
おい、近付いてくんなよイカレポンチが!
『マルコスのおともしてやんな~っ!』
後ずさる俺に向かって、ランチャーがぶっといモノをぶっぱなす! やりやがったフザケンナ!
「人違いですぅ~!」
冒険もう終わりすか?
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